2011 Fiscal Year Annual Research Report
オスマン朝イスタンブルの遊牧王権的宮殿群と都市空間形成に関する研究
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11J08433
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
川本 智史 東京大学, 大学院・工学系研究科, 特別研究員(DC2) (10748669)
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Keywords | オスマン朝 / イスタンブル / 宮殿 / エディルネ |
Research Abstract |
今年度はおもに研究遂行に必要な史料の収集とその分析を行った。以下にその成果をあげる。 第一に15世紀前半にエディルネにあった宮殿を訪れたヨーロッパ人旅行者(ベルトランドン・ド・ラ・ブロキエール、チリアコ・ダンコーナ、ペロ・タフール)による旅行記・書簡の内容を分析し、ここから得られた知見とオスマン語年代記史料などとを比較検討した。これにより同時代より宮殿には儀礼空間となる中庭が存在したことが明らかとなった。これはトプカプ宮殿の祖型となる空間がエディルネにおいて存在したことを示すものである。15世紀半ば以降イスタンブルに建設された宮殿群を分析する上でも、エディルネの事例が大変重要であることが判明した。この成果は2011年5月にトルコ共和国エディルネで開催された国際学会において、トルコ語で発表を行い公開した。なお本発表に基づいた日本語論文は現在査読中である 第二に16世紀のシャリーア法廷台帳や枢機勅令簿など刊行済みの史料を収集・読解した。特に都市の末端組織である街区(マハッレ)に関する記録に着目し、その分析を中心に作業を進めた。その結果イスタンブル郊外のユスキュダル地区において、16世紀初頭には住民の「マハッレ」への帰属意識が薄く、16世紀半ば以降都市化が進行するに従って帰属意識が高まり個々人の居住街区が重要なファクターとなることがわかった。 また他には、収集した史料等を用いて今日までのトルコ建築史・都市史の研究史整理を行い、学術雑誌においてその成果を発表した。特に日本語では同様の研究紹介は現在に至るまでまったく行われていなかったため、今後の研究進展の上で重要な作業であるといえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度は新たな史料を発見、分析することによって15世紀前半のオスマン朝宮殿の空間構造を解明することに成功した。「研究の目的」である「遊牧王権独自の建築造営」の一端を明らかにすることができ、大いに成果を上げることができた。その一方で、予定していた文書館史料の分析は若干遅れており、平成24年度に遂行する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
トルコ共和国に出張して、総理府文書館などに所蔵される関連史料の収集・読解を中心に研究課題を推進することを予定している。また研究計画2年次で予定していた「祝祭の書」や地図資料の分析も進め、王権による包括的な都市空間の用いられ方を明らかとする。 また平成23年度の成果であげた第二項(街区組織の分析)の内容をさらに深めるとともに、論文としてまとめ学術雑誌に投稿することも計画している。本研究は工学分野のみならず、人文系の研究領域にも関連した学際的なものであり、今後の活発な議論が期待される。 さらに平成24年度には特別研究員在籍期間に行った研究内容を中心として、博士論文を執筆の予定である。
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Research Products
(3 results)