2011 Fiscal Year Annual Research Report
腫瘍血管内皮の異常性獲得機構の解明:がん細胞の分泌する小胞が腫瘍血管へ影響する
Project/Area Number |
11J08458
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
川本 泰輔 北海道大学, 大学院・歯学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | microvesicles / 腫瘍血管内皮細胞 / PI3K / Akt / endocytosis |
Research Abstract |
腫瘍の血管は正常な血管と比較して構造的な異常がある。例えば、走行が乱雑で構造が未成熟であるため、栄養・酸素の供給が不十分となりやすいことが知られている。これらの異常性は腫瘍へ有利に働くと考えられている。そのため、腫瘍血管の異常性について理解することは、今後のがん治療において大きな意義があると考えられる。 腫瘍の血管から単離した腫瘍血管内皮細胞は正常な血管と比べて、様々な形質異常を持つことを我々の研究グループでは報告してきた。例えば、腫瘍血管内皮細胞では正常血管内皮細胞と比較して、血管新生能が高い。こうした細胞レベルでの異常が腫瘍血管の異常性に関与することが予想されるが、腫瘍血管内皮細胞の異常がどのように引き起こされるか、という点については明らかとなっていない。 本研究の目的は、これまで不明であった腫瘍血管内皮細胞の様々な異常性獲得に、がん細胞から分泌されたtumor-derived microvesicles(TMV)が影響するかどうかを調べることである。 正常血管内皮細胞に対するヒトメラノーマ由来TMVの生理活性を検討したところ、PI3K/Aktのシグナル経路の活性化を介して運動能と管腔形成能を亢進させることが分かった。さらに、TMVが血管内皮細胞内へendocytosisされる(取り込まれる)ことが、血管新生能の亢進に必要であることが分かった。これらの結果から、腫瘍内に存在するTMVを取り込むことで腫瘍血管内皮細胞の血管新生能が亢進する可能性について示唆された。 上述した研究内容については、日本癌学会・米国癌学会を始め6件の学会発表をおこない、査読付雑誌一報で報告をした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度の計画に基づき、TMV処理後の血管内皮細胞において薬剤耐性・幹細胞性に関する遺伝子発現及びタンパク量の変化を検討したが、顕著な変化は見られなかった。しかし、(1)腫瘍血管内皮細胞の形質である血管新生能が亢進するという現象と、(2)血管新生能の亢進にはTMVをendocytosisする必要があるという作用機序、の2点について明らかにした。(2)に関しては3年目に施行することを計画していたが、前倒しで検討することができた。一方で、1年目に検討予定であった染色体異常への影響については未検討であるため、本事項について引き続き検討中である。
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Strategy for Future Research Activity |
in vivoにおけるTMVの輸送及びその作用について、TMVの内容物であるmiRNAに着目した実験も検討中である。しかしながら、miRNAの局在を検討するためのmiRNA in situ hybridizationには技術的な課題点が多く、現在検討が遅れ気味である。また、TMVで輸送され得るmiRNAの作用については、同定したmiRNAをトランスフェクションした正常血管内皮細胞において、マイクロアレイを用いた遺伝子変動を解析中である。 また、今年度の検討において、TMVによる遺伝子発現の変化への影響については顕著な結果が不明であったが、これはTMVが未精製であったため効果が小さかった可能性がある。精製したTMVを用いることで血管内皮細胞への影響を観察できる可能性があると考え、こちらも現在検討中である。
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