2011 Fiscal Year Annual Research Report
リン脂質二重膜における静電相互作用が支配する相分離ダイナミクス
Project/Area Number |
11J08690
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
下川 直史 東京大学, 生産技術研究所, 特別研究員(PD)
|
Keywords | リン脂質 / 高分子 / 二重膜 / ベシクル / 相分離 / 静電相互作用 |
Research Abstract |
本研究の目的はソフトマターと呼ばれる物質群に含まれる、両親媒性分子が自発的に形成する秩序構造を明らかにすることにある。特に、静電相互作用など複雑な相互作用により形成される構造の安定性やダイナミクスを実験・理論の両面から取り組むことで、ソフトマターにおける秩序形成を一般的に議論することを目標とする。 両親媒性分子の一つであるリン脂質は、水中で二重膜構造を自発的に形成する。この二重膜構造は細胞膜や生体膜の基本構造である。飽和脂質・不飽和脂質・コレステロールの三成分から成るモデル細胞系において、ある温度以下で飽和脂質とコレステロールの多い領域と不飽和脂質の多い領域に相分離することが知られている。その際形成される飽和脂質とコレステロールの多い領域(ドメイン)は、細胞におけるシグナル伝達や膜輸送の足場となっている可能性が示唆されている。 生体膜には多くの電荷脂質が含まれているが、静電相互作用が相分離に及ぼす影響に関しての研究は立ち遅れているのが現状である。そこで、中性脂質・電荷脂質の2成分からなる荷電脂質二重膜における相分離のモデルを提案した。具体的には(1)二重膜の両面での相分離、(2)二重膜の両面が静電相互作用を介して結合、(3)二重膜が異なる塩濃度の溶液に挟まれていることといった現実に即した問題設定を行い、相挙動を理論的に明らかにした。 飽和脂質・不飽和脂質・コレステロールから成る脂質二重膜の相分離は数多く研究されてきたが、糖脂質などのかさ高い親水部を有する分子の影響は明らかになっていない。そこで、コレステロールに親水性の高分子(ポリエチレングリコール)が結合したPEG-Cholが相分離に及ぼす影響を実験的に調べた。その結果をドメイン界面に働く線張力とPEG間の斥力との競合に注目し理論的に説明した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は静電相互作用を考慮したリン脂質二重膜の相分離に関するモデルを提案し、それを第一著者として論文にまとめ発表した。さらに、PEG-Cholが誘起する相分離に関する論文においては、理論部分を担当し第二著者として論文を発表した。このように論文を2報発表しており、順調に研究成果をまとめ発表してきている。また、新たな実験のセットアップの構築を行い、来年度から行える状況にある。
|
Strategy for Future Research Activity |
電荷脂質を含むリン脂質二重膜は塩の吸着などにより相分離と同時に膜が変形することを見出してきた。そこで、膜の変形を理解する上で、リン脂質二重膜ベシクルに力学的なストレスを加え、変形の過程や、異方的な形状のベシクルにおける相分離を観察する予定である。まずは中性リン脂質での変形過程等をおさえ、その後、電荷脂質での振る舞いを明らかにしていく。実験がまとまった後は、理論(または数値シミュレーション)により実験結果を説明していくことを目標とする。
|
Research Products
(7 results)