Research Abstract |
本研究では,固体表面に吸着した水素原子,あるいは固体表面で散乱される水素原子のスピンの振る舞いを明らかにするために,スピン偏極水素原子線源と測定系を開発し,実際に試料の測定を行うことを目的としている. H23年度は水素原子線源と四重極質量分析器のアラインメントをとって設置を行い,水素原子の生成を確認した.また水素原子生成に用いているマイクロ波キャビティ,圧力の条件の最適化を行い,水素原子線の強度を高めた.水素原子の散乱実験においては入射水素原子線の強度がS/N比を決定するため,強度の上昇は意義深い. 試料測定の実施を見据えて,加熱処理,冷却,温度測定,電流測定を実施可能な可回転試料ホルダーの作成を行い,水素原子の脱離実験,散乱実験が行える配置を整えた. 試料として銀あるいは酸化物の水素分子吸着表面の評価を行う予定だったが,実際に酸化物の一つであるSrTiO3表面に水素原子,分子を吸着させ,吸着位置,電子状態変化の評価を行なった.一般に水素は酸化物中に深く拡散侵入することが多いが,共鳴核反応法を用いた吸着水素の深さ分布測定によって,無欠陥表面に吸着した水素原子,有欠陥表面に吸着した分子は共にSrTiO3の表面に局在していることを見出した.また無欠陥表面には水素分子は吸着しなかった.電子状態変化に関しては,欠陥のない表面に吸着した水素原子は表面に対して電子を供給し,SrTiO3のバンドギャップから伝導帯にかけての電子密度が増加することが分かった.逆に,欠陥表面に吸着した水素分子は表面から電子を受け取る傾向にあることも見出した.酸化物表面における水素の電子的に多様な振る舞いが明らかになり,酸化物表面の反応の理解にも貢献があると考えられる.スピン偏極水素を用いた実験に際しても,表面における水素の振る舞いの評価は不可欠であり,試料に関しての実験の下地が整いつつある.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
個別に見ると,スピン偏極水素原子線源と測定系の開発に関しては,やや遅れている傾向にある.電力問題によりマイクロ波キャビティの可動が非常に制限されていたため,水素原子生成の条件を最適化するのに時間を要した.これにより,六極磁石を設置して水素原子を偏極させ,その偏極度を測定するには至らなかった,これに対して,試料の評価に関して予定以上に順調に進行しており,全体と通して考えるとおおむね順調に進展していると考えられる.
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Strategy for Future Research Activity |
上述のように,試料の評価は順調に進展しているため,今後一年程度は特に装置の開発に重点的に取り組む予定である,H24年度も夏季の電力供給の制限が懸念されるが,電力を伴う評価を夏季以前あるは後に行い,全体としては進行に支障が出ないように気を付けたい。
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