2011 Fiscal Year Annual Research Report
らせん磁性体におけるスカーミオン格子形成とその量子輸送現象
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11J09335
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
金澤 直也 東京大学, 大学院・工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | らせん磁性体 / ホール効果 / スカーミオン / B20型化合物 / 熱電効果 |
Research Abstract |
遷移金属(Cr,Mn,Fe,Co,Ni)と14族元素(Si,Ge)の1対1の化合物はB20型構造というカイラルな結晶構造を持つことが多い。空間反転対称性を破ったその構造はOzyaloshinskii-Moriya相互作用(DM相互作用)を許容する。一般にDM相互作用は弱強磁性やらせん磁気構造といった様々な磁気構造の起源となっている。MnSiを始めとするB20型化合物もDM相互作用が誘起するらせん磁性体の原型として古くから活発な研究がなされて来た。近年ではスカーミオンと呼ばれるナノメートルスケールの渦状の新奇磁気構造がB20型MnSi、FeGeなどにおいて発見され、次世代磁気記録媒体への応用が期待されている。我々は、スカーミオンの示す新奇な電気磁気応答の観測や応用に向けたスカーミオン制御に向けて研究を行っている。スカーミオン密度、磁気転移温度、スカーミオン相の温度領域の広さは、トポロジカルホール効果といった新奇な電磁気応答の大きさや記憶媒体における情報記録密度を決定する重要なパラメータである。これまでは、一連の遷移金属モノゲルマナイドの作製し、特徴的な上記パラメータ値を示す物質を抽出して研究を行った。具体的には、高密度スカーミオン形成が期待されるMnGeの小角中性子回折実験と、スカーミオンの安定化が期待される薄膜サンプル作製を行った。MnGeにおいてスカーミオン格子形成に特有の磁気変調を観測した。さらに、採用以前に観測した非共面的な磁気構造に伴う大きなトポロジカルホール効果について論文として発表もしている。薄膜作製についてはFeGe、MnSi薄膜の作製に成功した。特に、FeGe薄膜ではトポロジカルホール効果が観測され、スキルミオン結晶形成が最低温までの広い温度領域で期待できた。一方、磁性を示さない組成においては、資源取得の容易さや低毒性、機械的衝撃や化学反応など周囲の環境に対する耐性から、応用化へ向けた熱電物質として注目を集めている。我々は、高圧合成法によってB20型CoGeの作製に成功し、大きな熱電効果を観測した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
スカーミオン磁気構造におけるトポロジカルな磁気構造特有の新奇な電磁気応答の観測や磁気記憶媒体への応用に向けて、重要なパラメータであるスカーミオン密度、転移温度、相の温度領域について明らかにすることが目的であった。その目的に対し現在までは、一連の物質合成によって特徴的な上記パラメータ値を有する物質を抽出することができ、それらの物質(MnGe、FeGe、Mnsi)に対して中性子回折実験による磁気構造解明や薄膜作製によるスカーミオン相の安定化を実現することができた。さらに、スカーミオン形成に伴うトポロジカルホール効果の観測や磁性を示さない組成における大きな熱電効果について、それぞれ論文として発表できた。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までに明らかにできたMnGeにおけるスカーミオン結晶形成の可能性やスカーミオン形成が示唆された薄膜に基づいて、スカーミオン磁気構造と新奇電磁気応答のトポロジカルホール効果の詳細な関係(スピンカイラリティ誘起の異常ホール効果とスカーミオン密度の関係など)や、電流印加などによるスカーミオン制御に向けたスカーミオン生成/消滅/移動に関する研究を推し進めていく予定である。特に、MnGeについては単結晶作製が可能になれば、中性子回折実験による明確な磁気構造決定を行いたい。これまでに確立できた分子線エピタキシー法を用いた薄膜作製法は、単結晶作製が困難であったB20型遷移金属化合物に対しても有用である可能性があり、MnGe単結晶にも効果的であると考えられる。
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Research Products
(8 results)