2011 Fiscal Year Annual Research Report
高精度Mn-Cr年代測定を用いた微惑星の形成と進化過程の研究
Project/Area Number |
11J09530
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
藤谷 渉 東京大学, 大学院・理学系研究科, 特別研究員(DC2)
|
Keywords | 微惑星 / マンガン・クロム年代 / 炭酸塩 / 水質変成 / 標準試料 / 二次イオン質量分析 |
Research Abstract |
本研究では、太陽系最初期に起こった微惑星の形成と進化過程を解明するため、水を含む隕石中の炭酸塩に対して、二次イオン質量分析計(SIMS)を用いたマンガン・クロム年代測定を行った。初めに、SIMSによるマンガンとクロムの存在量比(Mn/Cr)の分析値を適切に較正するため、MnとCrを添加した炭酸塩標準試料を合成した。電子プローブマイクロアナライザによる分析から、合成した標準試料はMn及びCrを1wt.%ほど含むことを確認した。この標準試料を東京大学大気海洋研究所に設置されている高感度高空間分解能のSIMS(NanoSIMS)によって分析し、MnとCrの相対的な感度比を正確に見積もった。炭酸塩の年代測定はこれまでにも行われてきたが、Mn/Cr相対感度比を見積もったのは本研究が世界で初めてであり、年代決定の精度に決定的な差をもたらす。次に、この標準試料と、NASAや国立極地研究所から提供された4種類のCMコンドライト(Murchison,Yamato 791198,Allan Hills 83100,Sayama)をエポキシ樹脂に埋め込み、研磨して薄片試料を作成した。走査型電子顕微鏡によって研磨薄片試料から炭酸塩を探し出し、その年代を測定した。その結果、当初の目標であった+/-50万年という年代決定精度を達成し、これら隕石中の炭酸塩が太陽系誕生から約480万年後にほぼ同時期に形成されたことを明らかにした。得られた年代データをもとに、隕石母天体である微惑星の形成年代を推定した。短寿命放射性核種の壊変エネルギーによって微惑星が加熱される様子を1次元熱伝導方程式によるモデル計算を行って見積り、炭酸塩が示す年代にその生成環境が実現するためには、CAI形成から350万年後にCMコンドライト母天体が形成される必要があることを示した。コンドライト母天体の形成年代の推定はこれまでにほとんど例がなく、特に水を含む微惑星の形成年代を決定したのは本研究が世界で初めてである。微惑星の形成時期は、ほとんどわかっていない微惑星形成の理論に対する大きな制約となる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初分析を予定していた4種類の始原的隕石(CMコンドライト)はすべて分析し終えることができ、また分析予定であったCIコンドライトにも着手しつつある。目標であった年代決定精度(+/-50万年)を達成することができ、結果としてCMコンドライト母天体である微惑星の形成・進化のシミュレーションもその精度で議論することができる。数値計算によって微惑星の進化をシミュレーションするプログラムを開発し、当初の予定通りCMコンドライト母天体の形成年代を推定した。
|
Strategy for Future Research Activity |
CMコンドライトの場合と同様に、CIコンドライトに含まれる炭酸塩のマンガン・クロム年代を二次イオン質量分析計(NanoSIMS)によって測定する。その手法はすでにCMコンドライトの測定時に開発し、ルーチン分析の段階に入っている。得られた年代をもとに、CIコンドライト母天体である微惑星の形成と進化過程を考察するとともに、CMコンドライト母天体の場合と比較し、水ある微惑星の形成と進化に関して、普遍性と特殊性について議論する。
|