Research Abstract |
音楽の公演やスポーツの試合等,社会的評価を伴うパフォーマンス場面では,しばしば運動制御が損なわれ,練習の成果が十分に発揮できないことがあり,一般的には「あがり」と呼ばれている。本研究では,社会的評価ストレス下における運動制御の特徴とその神経基盤を明らかにし,音楽/身体教育の実践に直接的に役立つ知見を得るとともに,情動が身体運動に影響を及ぼす機構の解明に寄与することを目指している。本年度は,交付申請書の「研究実施計画」に記載の通り,英国University of SussexのHugo Critchley教授と共同で,社会的評価ストレスが力発揮に及ぼす影響を媒介する脳部位を明らかにするため,機能的磁気共鳴画像法(fMRI)と生理指標(筋電図,心電図,脳波)計測を組み合わせた研究を実施した。データ分析の結果,社会的評価ストレス下では手指の発揮力が増大することが示され,その現象の背景には,社会的認知に関わる上側頭溝という脳部位の活動増加があることが明らかとなった。本研究成果より,従来,自閉症の発現に関与すると指摘されてきた上側頭溝が,「あがり」による運動パフォーマンス低下にも関与することが示されたとともに,同脳部位の活動を実験参加者にフィードバックしてその制御を学習させるニューロフィードバックという方法を用いて,「あがり」を緩和する新たな介入法を開発できる可能性が示唆された。また,日常的に「あがり」が喚起される場面では,ポジティブな評価を得る場合とネガティブな評価を得る場合がある。そこで,fMRI実験の分析と並行し,University College LondonのPatrick Haggard教授と共同で,運動パフォーマンスに対するフィードバックの感情価が運動制御に及ぼす影響を検討する心理物理学的実験の計画も行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究1のデータ分析を行った結果,これまで自閉症患者で着目されてきた脳部位が,社会的評価ストレス下での運動制御変容にも関わっていることが示唆され,本知見の実践場面への応用が強く期待されるため。
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Strategy for Future Research Activity |
当初,University of CambridgeのDean Mobbs博士と共同で研究2を実施する予定であったが,Mobbs博士が急遽米国のColombia Universityに異動することになったため,受入研究者である北澤茂教授の助言に基づき,University College LondonのPatrick Haggard教授の指導下で研究を実施するように計画を変更した。研究1を実施したUniversity of Sussexは,University College Londonからアクセスが良い(鉄道で約1時間)ため,来年度は,引き続きUniversity of Sussexにも客員研究員として登録し,Hugo Critchley教授と共同で,研究1の論文執筆及び投稿も,並行して進める予定である。
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