2011 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
11J09859
|
Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
谷内 一史 東京工業大学, 大学院・理工学研究科, 特別研究員(DC2)
|
Keywords | 2電子励起状態 / 電子-分子衝突 / Lyman-α光子 / 反応素過程 |
Research Abstract |
基底電子配置からみて複数の電子が励起した「分子多電子励起状態」は、電子と原子核の運動が強く相関し合う複雑な系である。そのため、電子衝突による多電子励起メカニズムの解明は非常に重要な課題である。しかし、分子多電子励起状態がイオン化連続状態と縮重しているため、理論的にその取り扱いが非常に複雑となるため、その理論研究はほぼ皆無であり、その進展が必要とされている。本研究では、電子衝突による多電子励起メカニズム解明のための実験結果を得る事を目的とした。平成23年度は、実験装置の高感度化に取り組み、時間分解能向上によりそれを実現した。これにより、水分子を対象とし、入射電子エネルギー100eV、電子散乱角3°、8°、15°、20°、30°における光子標識付き電子エネルギー損失スペクトル(CoEELS)の測定を当初の予定より早く完了した。この結果から、電子散乱角3°、励起エネルギー31eV周辺と、電子散乱角8°、励起エネルギー27.5eV周辺において鋭いピークが観測された。この鋭いピーク形状は他の電子散乱角におけるCoEELSや光励起スペクトルには観測されなかった。この事実よりピーク構造の由来は、光学的禁制状態の寄与である可能性が挙げられる。しかし、局所的な電子散乱角についてのみピーク構造が観測されているため、これらの電子散乱各依存性は光学的禁制状態の電子散乱各依存性とは異なっている。これは、CoEELSを各励起状態による寄与に分離する際に用いた「鏡映近似」の破綻の可能性を示唆している。以上の結果は、電子散乱角を変えてCoEELS測定を実現したことにより、初めて明らかにすることが出来たと言える。鏡映近似のような、広く用い、信じられている近似の破綻の可能性を示唆出来た点で、本研究で得られた結果の重要度は高いと言える。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
震災やそれに起因する計画停電の影響により、装置損傷を予防する観点から実験実施不可能な時期があり、一時は計画通り進まなかった。それにより、計画にあった学会での発表等を実施出来なかった。しかし、実験装置改造による測定時間の短縮により、実験計画の遅れは挽回する事が出来た。
|
Strategy for Future Research Activity |
前年度は実験計画の観点では計画通りに進んだが、結果を広く発表する点では計画に遅れをとった。本研究では、電子衝突による多電子励起メカニズムの解明を進める事を目的としているが、その実現には理論研究者の協力は欠かせず、そのために研究結果の発表は重要である。そのため、今後は早期に論文を発表出来るように準備をし、並行して多くの学会でその結果を発表出来るように研究を推進する。それにより、理論研究者の協力を得て、電子衝突による多電子励起メカニズムの解明を目指す。
|