2012 Fiscal Year Annual Research Report
赤外線天文衛星「あかり」の分光データを用いた褐色矮星大気構造の研究
Project/Area Number |
11J09991
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Research Institution | Japan Aerospace Exploration Agency |
Principal Investigator |
空華 智子 独立行政法人宇宙航空研究開発機構・宇宙科学研究所, 宇宙物理学研究系, 特別研究員(PD)
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Keywords | 赤外線天文学 / 褐色矮星 / 大気モデル |
Research Abstract |
本研究の目的は、「あかり」で取得した褐色綾星の2.5-5.0μmの分光データを用いて、『褐色矮星の上層大気における非熱平衡化学組成の普遍性を調査する』とともに、『分子組成を熱平衡状態から逸脱させる物理・化学過程を解明する』ことである。本年度は、新たな大気モデルの導出を目指し、次の通り研究を実施し、成果を得た。 当初予定していた研究計画の一つ『上層大気の化学組成比をパラメータサーベイにより見つけ出し新たな大気モデルを導出する』に物理的根拠を加えた解析を行った。褐色綾星の大気モデルUnified Cloudy Model(UCM; Tsuji 2002, 2005)に与えるC、O、FeのHに対する元素存在比(これまでは太陽組成比がモデルに与えられていた)を変化させることにより様々な大気モデルの導出を試みた。その結果、CO_24.2μmの吸収バンド強度の不一致については、「C+O」の元素存在量によって説明可能であることが明確化され左。一方、観測されたCO分子吸収バンド強度に対しては、元素組成比の違いのみでは説明が困難であることがわかった。 また、本年度は、当初の研究計画に加え、更に次の解析・議論も行った。 「あかり」で観測した褐色矮星の有効温度に対する半径の変化を導出し、理論的に予測される半径と質量および半径と年齢の関係を観測的に初めて確認した。進化理論によると若い褐色矮星の半径は質量と相関する一方で、その年齢が108年程度になると逆相関となり、最終的には質量とは独立に一定の値になることが予想されている。「あかり」で観測した16天体の半径を、モデルフラックスとの強度比と知られている距離から導出し、理論的に示唆されていたこの半径の逆転を初めて観測的に確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初計画していなかった下記解析を更に行い、観測的研究として意義ある結果を得、投稿論文としてまとめたため。 「あかり」の観測データと大気モデルを用いた更なる解析により褐色矮星の半径を導出し、理論から予測される半径と年齢、および半径と質量の関係を、観測的に初めて確認した。
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Strategy for Future Research Activity |
褐色矮星の大気構造の研究は系外惑星の大気研究にも繋がり、更には恒星大気と惑星大気との架け橋となる大変重要な研究である。しかしながら、未だ褐色矮星大気中のダストの生成消滅過程は一つの結論に至っておらず、また、褐色矮星の観測スペクトルを完全に再現できる大気モデルはない。本研究で使用している大気モデルUCMも広範囲に渡る観測スペクトルに対しては再現性が低くなる。今後も引き続き、UCMの見直し、計算コードの整理および改良により大気モデルの確立を目指し、更には、将来の系外惑星の直接分光観測に向けて、系外惑星の大気構造への大気モデルの拡張も行っていく予定である(名古屋大学理論宇宙物理研究室にて遂行予定)。
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Research Products
(8 results)