2011 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
11J10170
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
佐藤 大輔 東京大学, 大学院・理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | ヘリウム3 / 2次元 / 量子スピン液体 / 気液相転移 |
Research Abstract |
1年目は、スピンが絶対零度まで固化せず、なおかつ有限なエネルギーギャップを持たないというギャップレス・量子スピン液体の研究を行う準備段階として、ゼロ磁場中でのグラファイト上単原子層ヘリウム3の熱容量測定を行った。これにより、ギャップレス・量子スピン液体が実現しているとされるグラファイト上吸着第2層で現われる4/7整合相近傍における量子相図を明らかにした。特に4/7整合相の高密度側において整合相-不整合固相転移が存在すること、その転移が単純なマクロな2相共存によるものではなく、ドメインウォールのようなタイプの構造転移であることを示す結果を得た。 本研究の中でこれまで基底状態が気体であると考えられていた吸着第2層において0.6nm^<-2>以下の密度で自己凝縮液体が存在することが分かった。ヘリウム3は多くの理論計算の結果から2次元系において自己凝縮を起こさないとされてきたが、これまでに、私は吸着第3層における自己凝縮相を発見している[1]。しかし、これは3層目では吸着ポテンシャルが弱いために3次元性が現われてきているためだと解釈していた。吸着第2層の自己凝縮相の存在は、このヘリウム3の2次元系における基底状態についての解釈を揺るがすものである。したがって、私は当初の計画を若干変更し、1年目に第2層に比べても10倍近く吸着ポテンシャルが強い第1層のヘリウム3についての自己凝縮相の探索を行った。その結果、吸着第1層においてもヘリウム3は第2層以降とほとんど同じ性質の自己凝縮液体を形成することが分かった。この結果は、2次元ヘリウム3の基底状態が、これまで理論計算から考えられてきた気体状態ではなく、自己凝縮液体状態であることを示す非常に重要な結果である。 [1]D.Sato et al.,J. Low Temp. Phys. 158,201(2010).
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1年目はギャップレス・スピン液体の物理を研究するための準備として行っていたゼロ磁場における単原子層ヘリウム3の熱容量測定において重大な進展があったために、当初の研究計画とは若干変更し、2次元ヘリウム3の自己凝縮相の存在の解明に重点をおいた。そのため、当初の計画に基づいた内容としては若干遅れ気味となっているが、一方でヘリウム3が厳密な2次元系において自己凝縮を起こすというフェルミ粒子多体系における既存の理論計算結果を覆すような重要な実験結果を得ることができた。したがって、総評として(2)おおむね順調に進展している、とした。
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Strategy for Future Research Activity |
1年目に行ったゼロ磁場中での単原子層ヘリウム3の熱容量測定によって得られた結果は、吸着第2層において現われる4/7整合相における測定をする上でも有用である。したがって、本年度は、1年目に得られた結果を参考にしつつ、ギャップレス・量子スピン液体の研究を行う。具体的には、研究計画の2年目に記載されたように、グラファイト上に水素分子2層を吸着させ、その上に形成されるヘリウム3の4/7整合相(ギャップレス・スピン液体相)における熱容量測定を行う。現在、この測定を行うための準備は概ね完了しており、先行研究を参考とした水素分子の一様な2層膜の形成に成功次第、100μKに至る極低温での熱容量測定に入る予定である。
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Research Products
(8 results)