2012 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
11J10170
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
佐藤 大輔 東京大学, 大学院・理学系研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 量子スピン液体 / ヘリウム3 / 2次元系 |
Research Abstract |
核スピン1/2を持つ^3He単原子膜が形成するグラファイト上吸着第2層の4/7整合相は、強い磁気フラストレーションによってギャップレスの量子スピン液体状態となることが知られている。この系の低温極限における性質の探索はこれまで幾度も行われてきたが、帯磁率測定が交換相互作用Jに対してT/J~1/300まで行われているのに対し、比熱測定はT/J~0.18までの測定に限られていた。私はこの低温極限におけるギャップレス・スピン液体の比熱の振る舞いを調べるために、4/7整合相におけるJが下地として吸着させる原子/分子の種類を変化させることで大きく変更できることに着目し、最も大きいJ~3.0mKを持つHD(重水素化水素)2層上の4/7整合相を用いることで、これまでで最も相対温度T/Jの低い温度域に至る熱容量測定を試みた。 その結果、T/J=0.13というこれまでで最も低温までの熱容量測定に成功した。T/J<0.6での比熱は非常によく温度に比例しており、これは、スピノンのフェルミ面形成モデルなどの低温極限での比熱が温度に比例するモデルがこのギャップレス・スピン液体のスピン励起を記述する上で有効であることを示している。また、過去の^3Heおよび^4He上4/7整合相の比熱がT/J~0.6および4あたりにダブルピークを持つ温度依存性を示していたのに対し、本研究で得られたHD2層上での結果は同じ温度領域で緩やかなシングルピークを示す。この比熱構造は固体^3Heに働く多体交換相互作用の高次の項の競合具合によって大きく変化することが知られており、本研究でも面密度の変化によって競合の度合いが大きく変化したことによるものと推測される。ただし、このような高次交換の競合の変化は、低温極限での励起に対してはほとんど影響を与えないことも確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
最終年度である本年度は研究計画の後半であった"HD2層上417整合相でのゼロ磁場熱容量測定"について精力的に研究に励み、当初の目的であったこれまでで最も低い相対温度域での熱容量測定により、ギャップレス・スピン液体の低温極限での比熱が温度に比例した振る舞いを示すことを明らかにした。一方、417整合相の磁場中における長距離秩序相への相転移に関しては十分な研究を行うことはできなかったが、これは昨年度に報告したように当初の計画外であった"単原子層3Heの自己凝縮液体の発見"という重要な成果をあげるために計画の一部を変更したためである。この成果は、新聞各紙に掲載されるなど科学分野内外で大きく取り上げられた。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究によって4/7整合相が低温極限において温度に比例した比熱を持つというギャップレス・スピン液体状態の解明にとって重要な事実を直接的な形で強く裏付けることができた。一方で、4/7整合相の磁場中での長距離秩序相への相転移の観測というテーマは今後に引き続き推進すべき課題として未だ残っている。極低温と高磁場を両立させるために生じる熱伝導を得るための銀の使用と銀の巨大な磁気比熱の処理という問題点については、現時点では熱緩和法を用いて熱緩和時間の異なる銀とサンプル比熱を別々の成分として測定することが最適だと考えている。
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Research Products
(8 results)