2011 Fiscal Year Annual Research Report
樹木年輪セルロースの酸素同位体比によるモンスーンアジアの古気候復元
Project/Area Number |
11J10262
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
佐野 雅規 名古屋大学, 環境学研究科, 特別研究員(SPD)
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Keywords | 年輪年代学 / 気候復元 / 酸素同位体比 / インドシナ / ヒマヤラ / モンスーン / エルニーニョ |
Research Abstract |
本年度は、1)既存のサンプルを用いて樹木年輪の酸素同位体比を計測し、ベトナムおよびネパールの古気候を高精度で復元したほか、2)気候復元に必要なサンプルを採取するためのフィールドワークを、ラオス、ベトナム、およびブータンヒマラヤにて3ヶ月にわたり実施した。 ベトナム北部に生育するフォッキニアを計測・解析した結果、(1)年輪幅よりも酸素同位体比の方が、より正確に過去の水環境(降水量、相対湿度、乾燥指数)を記録していること、(2)試料採取地から150km隔てたラオス産フォッキニアの酸素同位体比の変動パターンとも良く一致しており、インドシナ半島北部の広域的な水環境の代替データとなること、(3)さらに、世界各地の気候変動に大きく寄与しているエルニーニョ現象とインドシナ北部の水環境が密接にリンクしており、年輪の酸素同位体比データから試料採取地域の気候のみならず、エルニーニョ現象そのものを復元出来ることが分かった。エルニーニョは、地球の気候システムを理解する上で鍵となる現象であるため、樹木やサンゴの年輪、アイスコアなどの代替データによって既に復元されているが、本研究では、既存のものから完全に独立したデータをもとに、エルニーニョ現象を復元することができた。今後、インドシナ各地でデータを蓄積することで、より精確にエルニーニョを復元することが可能である。その他、ネパールで得たモミの酸素同位体比の測定から、夏期の降水量・相対湿度を過去230年にわたって復元した。復元気候の特徴として、降水量・相対湿度が過去230年にわたり一貫して減っていることが挙げられる。この結果は、アイスコアや湖底堆積物の分析から復元されたヒマラヤやチベットの降水量変動とも良く整合していた。公表されている数値モデルの結果などを勘案すると、ヒマラヤ・チベットでの乾燥化は、熱帯海水温の上昇にともなう熱帯収束帯の南下に起因することが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究の主たる対象地域である、インドシナとヒマラヤで予定通りサンプルを採取できた。またいずれの地域においても、期待通り、年輪セルロースの酸素同位体比から過去200~300年の水環境を高精度で復元できた。
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Strategy for Future Research Activity |
ラオスやベトナム、ブータンで23年度に採取したサンプルの酸素同位体の測定と解析を進め、当該地域の古気候を復元するとともに、復元気候の変動要因を探る。
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