2012 Fiscal Year Annual Research Report
樹木年輪セルロースの酸素同位体比によるモンスーンアジアの古気候復元
Project/Area Number |
11J10262
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
佐野 雅規 名古屋大学, 環境学研究科, 特別研究員(SPD)
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Keywords | 樹木年輪 / 気候復元 / 酸素同位体比 / ヒマラヤ / モンスーン / ENSO / 東南アジア |
Research Abstract |
本年度は、ヒマラヤを横断する樹木年輪酸素同位体比のデータネットワークを作成し、モンスーン活動の時空間パターンを復元した。まず、ブータン産のカラマツ、トウヒ、ビャクシンから作成した酸素同位体比の時系列を比較したところ、異種間でも変動パターンが良く一致していたほか、どの樹種も夏期の降水量を反映していることが分かり、ヒマラヤ域の夏期モンスーンの時空間変化を樹種の制約を受けず詳細に復元できることが明らかとなった。ヒマラヤ西部から東部に至る5地域で採取したサンプルの酸素同位体比を計測した結果、サンプル採取地の距離が増すとともに両者の相関は落ちるものの、酸素同位体比の変動パターンは数百km離れていても概ね類似していた。ヒマラヤでは、南東側のベンガル湾が水蒸気の起源となっており、北西に向かうにつれ、毎年のモンスーン入り(雨期の始まり)が遅れるとともに、雨期の降水量が少なくなることから、東西方向での酸素同位体比の同調や差異は、毎年のモンスーンの張り出しを反映していると考えられる。全てのデータをネットワーク化して主成分分析を行ったところ、寄与率49%の第1主成分が得られ、いずれの地域の時系列とも正の相関を示すことから、ヒマラヤ域の平均的な夏期モンスーンの変動パターンを抽出することができた。一方、寄与率22%の第2主成分として、東西間で逆相関を示す特徴的なモードが出現した。この東西間でのコントラストの背後にあるメカニズムは未解明だが、インドの観測データを用いた既往の研究などから、数十日周期での降雨の季節内変動が関係している可能性が示唆された。そのほか、ヒマラヤの西部では、20世紀において乾燥化が進行している一方で、東部では、大きな変化が認められなかった。観測データやモデルを使った既往の研究によると、インド洋での海水温の南北コントラストがここ数十年で弱まったために、インドモンスーンが弱まっていると指摘されているが、このモンスーンが弱まっているという傾向は、より内陸の地域でのみ顕著であり、ヒマラヤ東部では認められないことが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
東南アジア(ラオス、ベトナム)、およびヒマラヤ(ネパール、ブータン)で採取した樹木年輪サンプルを用いて、当初の計画通り、過去数百年の降水量変動を高精度で復元できた。また、気候復元の地域拡大のため、台湾において樹齢1000年のヒノキからサンプルを採取することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
採取済みサンプルの測定と解析をさらに進め、当該地域の古気候を復元するとともに、低緯度アジアのデータネットワークを統合することで、広域の気候変動の実態を把握して、その変動要因を探る。
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