2012 Fiscal Year Annual Research Report
中・近世の禁裏公家文庫群を中心とした歌会資料のデータベース化とその制度的解明
Project/Area Number |
11J10647
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
今井 裕子 (高柳 裕子) 東京大学, 史料編纂所, 特別研究員(PD)
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Keywords | 公宴御会 / 禁裏・仙洞 / 中世和歌 / 近世和歌 / 懐紙 / 短冊 / 古筆 |
Research Abstract |
本年度は、昨年度までに作成したデータベースの拡充につとめた。昨年度は、御会集(御会の歌を御会ごとに集成した歌集)を中心に調査を行い、歌会データベースの基礎を作成したが、本年度は、御会集の調査も継続しながら、懐紙・短冊の調査に重点を置いていった。具体的には、久曽神昇編『和歌懐紙集成』(汲古書院、2005年)などの公刊資料のほか、出光美術館蔵『懐紙帖』、歴史民俗博物館蔵高松宮家旧蔵『御手鑑』、史料編纂所蔵『古筆懐紙』など、まとまって懐紙を伝える資料を中心に調査を・入力を行うと同時に、作成した歌会データベースと照合し、成立年次の絞り込みを行った。成立年月日が確定できた場合は、懐紙・短冊情報として歌会データベースにも反映させた。結果、歌会の運営が最も順調に行われた後柏原天皇代の懐紙の成立年次確定に関しては、相当な成果をあげることができたと言える。 一方、短冊の場合も、小松茂美編『短冊手鑑』(講談社、1983年)等の短冊手鑑を中心に、同様の作業を行ったが、詠歌年次の特定に至らない場合がほとんどであった。懐紙よりも現存点数も多く、また通題(みなで同題を詠む)である懐紙に比べ、おのおのが別題を詠む続歌に使用される短冊の詠歌年次等の特定には、懐紙よりも更に詳細なデータが必要となったからである。短冊に固有のこうした問題は、データベースの基礎となる御会集の分析・整理によって解決がはかられると考え、作者などの項目を加え、誰がどの題を詠んだかわかるようにしたところ、由来が明らかになった短冊が数点あった。 上記の作業を継続することにより、詳細な歌会データベースが完成されれば、「未詳」とされてきた多くの懐紙や短冊の詠歌年次や性格が即座に明らかになろう。また、歌会資料の伝存状況を{府轍的に把握することが可能となり、古典籍の伝来という点にも新たな視座を提供することと思われる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、懐紙や短冊等、歌会で実際に使用された一次資料を中心に調査を行い、整理・分類またそれを踏まえて資料の分析を行った。懐紙に関しては、先に作成した歌会データベースと照合することにより、成立年月や成立事情を明らかにすることができ、分析においても順調に進展していると言えるが、短冊に関しては、データの蓄積にとどまり、懐紙に比べると分析という点ではやや遅れがある。ただし、データの収集は順調に進んでおり、おおむね予定通りに達成できていると思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度までは、「歌会制度史の解明」という研究目的から、より多くの歌会データを収集したいと考え、歌会データベースの扱う年度に下限を設けなかったが、短冊の分析等には従来のデータでは不十分であることが明らかになった。来年度は、こうした問題を踏まえ、歌会データベースの項目の追加と、いっそうの充実をはかるため、西暦1500年頃から1600年頃の、およそ100年間の歌会を範囲として、より詳細な歌会データベースを構築することとする。短冊や懐紙も、当該時期に記されたものを中心に分析を進めていくことになろう。中心となる時期を設定することで、当該時期の歌会の運営実態に迫り、それとの比較という方法で歌会制度史の解明へとつなげてゆきたい。
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