Research Abstract |
日本には概ね1万人の大腿切断者が存在しており,その多くが階段を歩けない点に不自由を感じている.そのため,大腿切断者は健常者とは異なる身体技法によって階段をゆっくりと昇る.結果として,昇段が可能にはなるものの,見た目の不自然さから,こうした動きは切断者が劣等感を抱くきっかけになっている.また,大腿切断者が両脚交互の昇段を行うためには,バッテリー駆動型の動力義足の開発がある.しかしながら,こうした最新の義足は既存の製品に比べると価格・重量・性能の面で課題が山積している.そこで本研究の目的は,片側大腿切断者における階段上昇能力改善・再獲得を目的としたリハビリテーション法の開発を行うことであった。 本年度は都内近郊に居住する大腿切断者25名を対象に,日常的な階段移動の方法をヒアリングし,Buellら(2004)が作成したStair Assessment Index(SAI;14段階評価スケール)によってそのスコアを分類した.また,SAIと個々人の身体特性(身長,年齢,体重,切断年数,断端長,使用している膝継手)との関係を調べ,階段上昇動作と関連のある要素を探ることを目的とした研究を行った.その結果,年齢が高い切断者ほどSAIが低くなる傾向にあること,そして切断歴が長くなるほどSAIが高くなるという傾向が得られた.これらの結果は,大腿義足ユーザーが階段歩行リハビリテーションを行う上で考慮すべき因子として有用な情報になりうる.また,健側肢の動的筋力指標(Leg stiffness)を片脚連続跳躍動作で推定し,SAIとの関連を見たところ,両者には正の相関関係が確認された。興味深いことに,上述したLeg stiffnessは大腿切断者の疾走速度との間に有意な相関関係が認められた.これらの結果は,リハビリテーションの過程で,定期的に片脚連続跳躍動作によるLeg stiffnessを評価することによって,義足ユーザーの体力適性や耐えうる日常生活強度レベルを推定できる可能性を示唆している.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成23年度は大腿切断者が階段上昇動作を行う上で必要な身体要素・動作特性を明らかにするべく,SAIという階段歩行スケールと身体特性との関係を明らかにした.このような階段歩行の規定因子を探るという研究は,義足歩行のリハビリテーション現場にとっても実用的な研究といえる.また,片脚連続跳躍動作による健側肢の動的筋力指標(Leg stiffness)が大腿切断者のSAIや疾走速度との間に有意な相関関係にあるという研究成果は,より活動的な生活を望む義足ユーザーにとって,リハビリテーションの目標値になりうるものである.
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題を遂行するには,(1)大腿切断者が階段上昇動作を行う上で必要な身体要素・動作特性を明らかにすること,と(2)すでに階段歩行を実現している大腿切断者の歩行解析を詳細に検討することが必要不可欠である.来年度以降も,上述した2点を軸に研究を展開していく予定である.しかしながら,上述した(1)に関しては,結論を導くためにはある一定数の被験者数を確保する必要があるため,来年度以降は特に精力的に取り組んでいく予定である.
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