2012 Fiscal Year Annual Research Report
ニオイの感性予測能力を持つ嗅覚神経回路モデルの提案と人工官能検査装置の開発
Project/Area Number |
11J10869
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
曽 智 広島大学, 大学院・医歯薬保健学研究院, 特別研究員(PD)
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Keywords | 官能検査 / ニオイ / 嗅球 / 神経活動パターン / ニューラルネット |
Research Abstract |
近年,においを的確に評価し得る方法の検討が重要な課題となってきている.本研究では,人が行ってきた官能検査を代行する人工官能検査装置を提案する.本年度は,これまでに実施したヒトに対する官能検査の結果に基づき,当初の予定であるラットの神経活動とヒトの感覚の対応付けアルゴリズムについて検討をおこなった.また,化学受容が誘発する生物の行動メカニズムを探るために,もっとも単純な多細胞生物である線虫に着目し,その走化性行動シミュレーションを実施した. 【ラットの神経活動とヒトの感覚の対応付けアルゴリズムの提案とヒトの感覚予測モデルの構築】 公開されているラット嗅球の神経活動パターンデータベース(http://gara.bio.uci.edu/)から,ヒトの官能検査に用いたニオイに対するラット糸球体層の活動パターンを取得し,活動パターン間の類似度とヒトの官能検査結果を比較した.活動パターン間の類似度は,相関,オーバーラップ率,および,ヒストグラムの差という3つの指標で定義した.指標空間におけるユークリッド距離と,ヒトが感じるニオイの類似度を比較した結果,中程度の相関が存在することを確認した. 以上の結果は,ラットの神経活動から人のニオイ感覚を予測できる可能性を示唆している.そこで,3つの指標を入力として,Log-linearized Gaussian Mixture Network (LLGMN)を用いてヒトの感覚予測を試みた.LLGMNは,統計モデルの一つである混合正規分布モデルを内包したニューラルネットであり,サンプルデータから統計分布を推定できるため,一般的なMultilayer Perceptron (MLP)と比較して高い学習・識別能力が実現できる.ニオイ間の類似度を似ている・似ていないという2クラスに分類する課題を与えた結果,33%から79%という識別精度が得られた.33%という低い識別率が得られた原因は,データセットのサイズが小さかったためであると考えている.(日本味と匂学会論文賞受賞)
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通り,2年目にラットの神経活動とヒトの感覚の対応付けアルゴリズムの提案とヒトの感覚予測モデルの構築が実施できたため.
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Strategy for Future Research Activity |
ニオイの類似度の定義に用いた3つの指標(相関,オーバーラップ率,ヒストグラムの差)は,経験則に基づいて選定しており,生物学的には不自然な特徴量である可能性がある.そこで,最終年度はこれまでに構築したアテンションモデルや従来提案されている嗅覚系モデルを用いて,活動パターンからより生物学的に自然な特徴量を抽出し,提案法の識別精度を改善する予定である.また,人間に対する官能検査を引き続き実施し,ニオイの感覚データベースを拡充する必要がある. また,当初の予定通り来年度は提案アルゴリズムをガスクロマトグラフィー装置に組み込み,人工官能検査装置の構築を行う.
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