2011 Fiscal Year Annual Research Report
エピジェネティックシステムの構築・作動の仕組みとその生理的意義の解明
Project/Area Number |
11J11060
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
林 陽平 東京大学, 大学院・薬学系研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | ヌクレオソーム / ヒストンシャペロン / CIA-I / エピジェネティクス / ノックアウトマウス |
Research Abstract |
研究の成果:真核細胞生物のDNA活性は、ヌクレオソーム構造及び高次クロマチン構造の形成・破壊により制御されており、その制御異常は癌を始めとする様々な疾患に繋がる。私は、直接ヌクレオソームの形成・破壊を制御し遺伝子発現制御に寄与するヒストンシャペロンは、エピジェネティック制御異常により生じる種々の疾患治療の有効な標的となりうるのではないかと考えた。本研究では、進化的に最も保存されているヒストンシャペロンCIA-Iによるヌクレオソーム構造変換反応の制御が、動物個体でどのような生理的意義を持つか、を解明することを目的とする。研究実施計画では、本年度はi)CIA-Iノックアウトマウスの作出、ii)CIA-Iノックアウトマウスの形態学的解析、を目標に定めた。i)に関しては、C57BL/6J系統マウスでのCIA-Iノックアウトマウスの作出に成功し、胎齢10.5~12.5日の時点で胎生致死となることを明らかにした。更に詳細な形態学的解析を行うため、近交系であるC57BL/6Jより胎生致死が観察されにくい交雑系のICR系統マウスを用いてCIA-Iノックアウトマウスの作出を行った。その結果、ICR系統では胎齢19.5日~生直後までCIA-Iノックアウトマウスが生存した。引き続き、ii)の形態学的解析をICR系統のCIA-Iノックアウトマウスで試みた。その結果、CIA-1ノックアウトマウスは野生型マウスと比較して体長及び体重が小さいこと、心臓が異形で小さいこと、一部骨形成(側頭骨、胸骨)に異常が見られることが明らかになった。 研究の意義・重要性:CIA-Iはヌクレオソームの形成・破壊という遺伝子発現の根幹を担うにも関わらず、ICR系統のCIA-Iノックアウトマウスは胎齢19.5日~生直後まで生存したことは驚くべき結果であり、ヒストンシャペロンの生理的役割を理解する上で重要な意義を持つ。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、本年度は、CIA-Iノックアウトマウスの作出及び個体レベルでの形態学的解析を行うことを目標としていた。結果として、CIA-Iノックアウトマウスの作出に成功し、野生型マウスと比較して体長が小さいことを確認できた。それだけでなく、体長が小さくなる原因を探るため、個々の組織の解析に進むことができた。具体的には、心臓及び骨形成に関して個別に解析を進め、それぞれ異常を発見するという結果を得られたため、当初の計画以上に進展したと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、CIA-Iノックアウトマウスの体長が小さくなる仕組みについて、更に臓器・組織に焦点を当てた解析を進めていく。異常の見られた臓器及び組織に対しては、異常のある細胞を特定するための組織切片解析、異常の原因を特定するための遺伝子解析を行い、異常の見られた細胞、及び発現変動の大きい遺伝子に着目していくことを考えている。 一方、組織や臓器形成以前に体長が小さくなっている可能性もあるため、CIA-Iノックアウトマウスの発生初期における細胞増殖や細胞死の変化についても検証していきたい。野生型マウスと比較して、細胞増殖や細胞死に変化が見られた場合、変化の原因を特定するための遺伝子解析へと進む。
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