2012 Fiscal Year Annual Research Report
エピジェネティックシステムの構築・作動の仕組みとその生理的意義の解明
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11J11060
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
林 陽平 東京大学, 大学院・薬学系研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | ヌクレオソーム / ヒストンシャペロン / CIA-I / エピジェネティクス / ノックアウトマウス |
Research Abstract |
研究の成果:真核細胞生物は、ヌクレオソーム構造及び高次クロマチン構造の形成・破壊により遺伝子活性を制御しており、その異常は癌を始めとする様々な疾患を惹起する。私は、直接ヌクレオソームの形成・破壊を制御するヒストンシャペロンという一連の因子群が、エピジェネティック制御異常により生じる種々の疾患治療の有効な標的となるのではないかと考えた。本研究では、進化的に高度に保存されたヒストンシャペロンCIAによるヌクレオソーム構造変換反応の制御が、動物個体でどのような生理的意義を持つか、を解明することを目的とする。研究実施計画では、本年度はi)ICR系統のCIA-Iノックアウトマウスの表現型解析、及び臓器形成解析、ii)CIA-Iノックアウトマウスの遺伝子発現変動解析を目標に定めた。i)に関しては、前年度までに作出していたICR系統のCIA-Iノックアウトマウス(周産期致死であるため、胎児期)の表現型観察を行った。その結果、CIA-Iノックアウトマウスは野生型マウスと比較して体長及び体重が小さいこと、心臓が異形で小さいことが明らかになった。更に、CIA-Iノックアウトマウスの胎児個体を用いたマイクロアレイによる包括的遺伝子発現変動解析を進めた。その結果、免疫関連遺伝子、神経発生関連遺伝子、糖代謝関連遺伝子といった遺伝子群の発現変動を強く認めた。 研究の意義・重要性:CIA-Iはヌクレオソームの形成・破壊という遺伝子発現の根幹を担う役割を有する。そのような因子が、個体の正常発生に重要な役割を果たすことを明らかにしつつ、胎児期初期の発生分化に必須ではないことが示された。また、胎児期の遺伝子発現におけるCIA-Iの役割を明らかにする端緒となる結果を得たことから、ヒストンシャペロンの生化学的活性と発生・分化における生理的意義の関連性を世界で初めて明らかにできる手がかりを得たと言える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、本年度は、CIA-Iノックアウトマウスの個体レベル・組織レベルでの形態学的解析を行うことを目標としていた。結果として、ICR系統のCIA-Iノックアウトマウスが周産期致死であること、野生型マウスと比較して体長が小さいこと、心臓形成にも異常をきたすことなど、個別の組織の解析に進むことができた。 更にCIA-Iノックアウトマウスを用いた包括的な遺伝子発現変動解析を進めることができたため、当初の計画以上に進展したと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、CLA-Iノックアウトマウスにおける発生異常の仕組みを、CIA-Iの持つ生化学的活性、及びCIA-Iノックアウトマウスで遺伝子発現変動が見られた遺伝子に着目しながら明らかにしてくことが課題となる。そのために、個体レベルでの発生異常の原因を組織レベル、あるいは細胞レベルで摸索していくことが必要である。そのため、今後は、CIA-Iノックアウトマウスから組織あるいは細胞を分離し、各々のレベルでの表現型解析、遺伝子解析を行う予定である。 また、もう一つの重要課題として、CIA-IとCIA-IIの生理的意義の違いを明らかにすることがある。CIA-IIのノックアウトマウスは、現時点で特徴的な表現型が見られていないが、精巣、腸、胸腺やがん組織などで高発現するという興味深い知見があるため、今後はこれらの系における異常を検証していく。
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