2013 Fiscal Year Annual Research Report
エピジェネティックシステムの構築・作動の仕組みとその生理的意義の解明
Project/Area Number |
11J11060
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
林 陽平 東京大学, 大学院薬学系研究科, 特別研究員(PD)
|
Keywords | ヌクレオソーム / ヒストンシャペロン / CIA / エピジェネティクス / ノックアウトマウス |
Research Abstract |
研究の成果 : 真核細胞生物は、ヌクレオソーム及び高次クロマチン構造の形成・破壊により遺伝子活性を制御しており、その異常は様々な疾患を引き起こす。私は、直接ヌクレオソームの形成・破壊を制御するヒストンシャペロンという一連の因子群が、エピジェネティック制御異常により生じる種々の疾患治療の有効な標的となると考えた。本研究では、進化的に高度に保存されたヒストンシャペロンCIAによるヌクレオソーム構造変換の制御が、動物個体の発生分化においてどのような生理的意義を持つか、を解明することを目的とする。研究実施計画では、本年度はi)CIA-Iホモノックアウトマウス由来の胚線維芽細胞系の樹立、ii)胚線維芽細胞の表現型異常の解析、iii)CIA-Iを介した遺伝子発現制御機構の解析を行う予定であった。i)に関しては、前年度までに作出していたICR系統のCIA-Iノックアウトマウスを用いて、マウス胚繊維芽細胞を樹立する系を構築した。ii)に関しては、胚繊維芽細胞を用いた細胞増殖解析を行い、増殖異常を観察した。iii)に関しては、CIA-Iノックアウトマウスで発現変動した遺伝子のプロモーター解析から、これらに共通して働くと推定される転写因子候補を特定した。これらの研究を通して、CIA-Iによるエピジェネティックな遺伝子発現制御を介した細胞増殖・分化の制御モデルの構築を進めた。 研究の意義・重要性 : CIA-Iはヌクレオソームの形成・破壊という遺伝子発現の根幹を担う役割を有する。そのような因子が、個体の正常発生に重要な役割を果たしつつも、胎児期初期の発生分化に必須ではないことが本研究で明らかにされた。また、胎児期の遺伝子発現におけるCIA-Iの役割を細胞レベル・遺伝子レベルで明らかにする端緒となる結果を得たことから、ヒストンシャペロンの生化学的活性と発生・分化における生理的意義の関連性を世界で初めて明らかにできる手がかりを得たと言える。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、本年度は、CIA-Iノックアウトマウスの細胞レベルでの表現型解析、遺伝子発現制御解析を行うことを目標としていた。結果として、ICR系統のCIA-Iノックアウトマウス由来の胚繊維芽細胞を確立し、増殖異常を解析した。また、CIA-Iノックアウトマウスの発現変動遺伝子のプロモーター解析から、CIA-Iと協調して働くであろう転写因子を特定できた。これらの解析を通して、当初予定した目標をおおむね進めることができたため、研究は順調に進展したと言える。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は、CIA-Iノックアウトマウスにおける発生分化異常の仕組みを、CIA-Iの持つ生化学的活性、及びCIA-Iノックアウトマウスで遺伝子発現変動が見られた遺伝子に着目しながら、細胞レベルで明らかにしてくことが課題となる。そのため、本年度進めた、CIA-Iノックアウトマウス由来の胚繊維芽細胞の表現型解析(増殖解析、アポトーシス解析, 細胞周期解析など)を更に進め、異常のある表現型を特定する。それに加え、CIA-Iと協調して働く転写因子を相互作用解析により特定し、個別の遺伝子の発現制御機構モデルを構築する必要がある。また、もう一つの重要課題として、CIA-IとCIA-IIの生理的意義の違いを明らかにすることがある。CIA-IIのノックアウトマウスは、現時点で特徴的な表現型が見られていないが、精巣、腸、胸腺やがん組織などで高発現するという興味深い知見があるため、これらの系における異常を検証する必要がある。
|