2012 Fiscal Year Annual Research Report
ホヤ中枢神経系における遺伝子調節ネットワークのモデル化と検証
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11J40094
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
佐藤 薫 (今井 薫) 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(RPD)
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Keywords | ゲノム |
Research Abstract |
ホヤ中枢神経系における遺伝子ネットワークの研究で、ホヤの原腸胚から尾芽胚期にかけて中枢神経系に発現する転写因子、およびシグナル分子の発現パターンを網羅的に調べた。その過程で、AI)MPと呼ばれるBMP(骨形成タンパク)ファミリーに属するシグナル分子について興味深い結果を得た。この遺伝子は原腸胚期に中枢神経に発現するが、それに加え表皮にも発現する。ホヤのゲノム上でこのAI)MP遺伝子のとなりにpinheadとよばれる同じくTGFベータファミリーに属する遺伝子がコードされていた。そしてpinheadとADMPは互いに重なり合わず、ホヤの胚で相補的に表皮に背側、腹側に分かれて発現していることが明らかになった。 調べてみると,PinheadはAdmpに特異的なアンタゴニストであり,ホヤにおいて表皮の腹側の領域の決定に必須であることが明らかになった.つまりADMPの機能を阻害すると腹側領域が消失し、逆にPinheadを機能阻害すると腹側領域が拡大する。さらに、共免疫沈降実験によりADMPとpinheadは結合することも明らかになった。また、Pinheadはこのタンパク質レベルでのAdmpの抑制にくわえ,Pinhead遺伝子の転写によりAdmp遺伝子の転写が直接的に抑制されるという二重の抑制機構をもっていた.この転写抑制はこの2つの遺伝子がゲノムにおいて隣接してコードされていることを利用していることが明らかになった(図)。転写による抑制機構が働いているというデータを補強するために、ゲノムの立体構造を調べる3C法(chromosome conformation capture)で調べてみた。すると、実際の内在的なゲノム上でも図のような構造をとっていることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
他の動物胚と同じように、カタユウレイボヤの中枢神経系は外胚葉性の細胞である。中枢神経系が形成されていくもっとも初期の過程を網羅的遺伝子発現パターン解析によって研究していく中で、中枢神経系を含む外胚葉細胞の分化にAdmp(骨形成因子BMPのひとつ)が中心的な役割を持つ可能性を見出した。そこで、さらに詳しく解析した結果として、Pinheadと呼ばれるあたらしいAdmpアンタゴニストを同定し、PinheadとAdmpのかかわる新しい転写調節機構を明らかにした。当初の目標そのものを達成する成果ではないが、その研究成果は高く評価されており、ほぼ期待どおりの研究の進展があったと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
Pinhead遺伝子とAdmp遺伝子とがゲノムに並んで存在するという遺伝子の配置は,動物のゲノムにおいて広範囲に保存されており、Admp遺伝子もPinhead遺伝子も持っている動物では常にPinhead遺伝子のすぐ下流にAdmp遺伝子がコードされていた.メダカで同様な実験を行った結果、ホヤと同様の分子機構のはたらいていることが確認された.この遺伝子の並びはこれら遺伝子の機能に必要不可欠な役割をはたしており,それが進化において遺伝子の並びが高度に保存されてきた理由であろうと考えられた.通常,ゲノムにおける遺伝子の並びは進化の過程で比較的自由に変化すると考えられているが,このPinhead-Admp遺伝子クラスターのように高度に保存された遺伝子クラスターは少数ながら存在している.私が明らかにした分子機構が進化的な制約となりゲノムの進化に影響したものと考えられる.今後は進化的に保存された遺伝子の並びについて研究を進めていきたい。
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Research Products
(3 results)