2011 Fiscal Year Annual Research Report
感情と知覚の相互作用の心理的・脳科学的脳科学的基盤の解明
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11J40131
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
北村 美穂 東京大学, 先端科学技術研究センター, 特別研究員(RPD)
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Keywords | 感情 / 知覚 / 心理物理 / 遺伝子多型 / 情緒的意味 / 表情 |
Research Abstract |
本年は、感情状態をはじめとした個々人の内的特性が知覚処理に影響を及ぼす現象について、複数の実験を実施した。第1に、感情特性の代表的指標である不安傾向の高低によって、視覚的な知覚、特にこれまで十分検討がなされていなかった周辺視野の知覚が影響を受けるか、位置記憶課題を用いて心理物理学的実験を実施した。実験の結果、低不安傾向者は、幸福顔の周辺に提示されたプローブの位置を他の表情よりもより近くに知覚しているのに対し、高不安傾向者は幸福顔周辺のプローブ位置を他の表情よりもより遠くに知覚していることがわかり、幸福顔の周辺空間が、不安傾向の高低によってゆがむ可能性を示唆された。第2に、音楽によって誘導された気分が、視覚と聴覚刺激を組み合わせ多感覚刺激の知覚にどのように影響するかstream&bounce刺激を使い、実験を行った。実験の結果、楽しい音楽を聴くと、ノイズを聴いていた場合に比べ、衝突に見える割合が高くなることがわかった。これらの結果は、楽しい気分が聴覚と視覚の多感覚統合を促進することを示唆する。第3に、視覚・聴覚刺激の知覚が、感情処理に深く関わる遺伝子多形の影響をどれほど受けるのか検討した。実験の結果、聴覚的な両義的知覚の切り替え回数と、視覚的多義図形の切り替え回数がそれぞれCOMTとHTR2A遺伝子の影響を受けることがわかり、知覚の成立は、脳内の皮質と皮質下の脳神経活動に依存することが示唆された。これらの結果は、Cerebral Cortexに掲載された。最後に、健常人がニュートラルな気分状態にいるときに、視覚呈示された情緒的刺激が、どのように脳内表象されているかをfMRIで計測した。視覚刺激の感情性の理解が、複数の脳部位で個別に処理されたのち統合されるといった階層性を持つことがわかった。これらの成果は、Japanese Psychological Researchに掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
23年度は、交付申請書に記載したとおり、感情が影響をおよぼす知覚現象について、視覚にかぎらない複数モダリティを対象とした知覚実験など、心理物理的手法による複数の実験を順調に実施し、学会発表を行うことができた。また、本研究テーマに関する複数の研究が国際紙に論文が採択されるなど、国際的な評価も得られてきていると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題では、心理計測のみならず、生理指標の計測を重要実施項目に掲げていたが、23年度の研究によって、そこに至る以前に、心理物理的手法によってとらえることができる感情と知覚の相互作用は、その機序がより複雑な様相を呈する可能性を確認した。そこで、本研究課題では、心理現象に対応する生理指標の計測を性急に行うのではなく、心理物理的手法で現象を綿密かつ体系的にとらえることを十分実施し、関連する生理指標を絞りきった上で、次のステップに進みたいと考えている。
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