2012 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
11J40131
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
北村 美穂 東京大学, 先端科学技術研究センター, 特別研究員(RPD)
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Keywords | 感情 / 視聴覚統合 / 表情 / 遺伝子多型 |
Research Abstract |
本年は、感情状態やそれに影響を及ぼす遺伝子多形が、知覚処理に与える効果について、複数の実験を実施した。 第1に、気分と知覚処理の相互作用について、新しい知見を得た。これまで、ポジティブ気分が認知課題/視覚課題に対し、統合的・大域的な処理を促進することが知られているが、複数モダリティが関わる処理にまで同様の影響を及ぼすかどうか不明であった。そこで、通過/衝突事象(二つの黒色小円が接近し、互いに重なり合い、再び離れるといった運動事象)を用いて、多感覚統合処理においても、ポジティブ気分によって統合的な処理が促進されるのか、検討を行った。実験の結果、同じ刺激を知覚しているにもかかわらず、ポジティブな気分の場合にはネガティブな場合にくらべ、衝突事象の報告が増える、すなわち視聴覚統合が促進されることがわかった。また、ポジティブな気分が強くなればなるほど、衝突事象の報告が増えるという、正の相関関係があること、ならびに、単純な視聴覚刺激を用いた同時性判断課題をでは気分の影響が見られないことがわかった。これらの知見は、International Multisensory Research Forum 2013、ならびに、日本基礎心理学会第31回大会、および第4回多感覚研究会で発表された。 第2の成果は、遺伝子多型と表情の視覚的処理についての新しい知見である。これまでの先行研究では、セロトニントランスポーターの遺伝子多型が表情の認知や注意に影響を及ぼすことがわかっている。しかしながら、視覚的に単純な表情の検出、すなわち認知的な処理が伴わない純粋な知覚的検出のレベルでも影響を及ぼすのかどうか、明らかにされてこなかった。そこで、我々は、検出課題を用いて、セロトニントランスポーターの遺伝子多型によって2群に分けられた(short/long)参加者がどのようなパフォーマンスを見せるのか、検討した。 実験の結果、被験者の性別によって表情の強度の影響は異なるものの、short保有者は悲しみ表情よりも幸福の表情に対する感度が高いのに対し、10ng保有者はそうした傾向は見られなかった。これらの結果は、知覚レベルにおいてshort型がポジティブ顔の検出を促進することを示唆するものである。これらの成果は、査読付き国際誌PlosOneに採択された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
24年度は、前年に明らかにした心理物理学的知見にもとづいて、神経学的検討に入る予定だった。しかしながら、前年度中に新たに得た知見についてさらに詳細な心理物理学的検討が必要であったため、それらの実施を優先し、当初の予定から遅れる結果となった。しかしながら、国際紙に論文が採択されるなど、順調に成果が出ており、国際的な評価も得られてきていると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題では、心理計測のみならず、生理指標の計測を重要実施項目に掲げていたが、23年度同様、24年度の研究でも、心理物理的手法によってとらえることができる感情と知覚の相互作用は、その機序がより複雑な様相を呈することをを確認した。尚早な取り組みで現象を表面的にとらえることを避けるため、次年度も引き続き心理物理学的手法を中心に、課題を綿密に掘り下げ、問題の本質を明らかにしていきたいと考えている。
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