2002 Fiscal Year Annual Research Report
一分子生理学の立ち上げ:一個の分子機械の機能と構造変化の直接観察
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12002012
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Research Institution | Okazaki National Research Institutes |
Principal Investigator |
木下 一彦 岡崎国立共同研究機構, 統合バイオサイエンスセンター, 教授 (30124366)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
伊藤 博康 浜松ホトニクス株式会社, 筑波研究所, 専任部員(研究職)
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Keywords | 一分子観察 / 一分子操作 / F_1-ATPase / 蛍光性ATP / 蛍光エネルギー移動 / 磁気ピンセット / ATP合成 / ミオシン |
Research Abstract |
1.F_1-ATPaseの回転機構 昨年度に引き続き、蛍光性ATP(Cy3-ATP)のF_1ATPaseへの結合と回転子であるγサブユニットに結合させたビーズのステップ回転の同時可視化を試みた。ATPによる回転は毎秒8000駒で高速撮影すると90度+30度のサブステップに分かれることをすでに報告したが、Cy3-ATP駆動の場合は、通常のビデオレート(毎秒30駒)でも80度+40度のサブステップが観察されることが分かった(80度と90度の違いが実験誤差かどうか微妙である)。そこでATPとCy3-ATPの混合物で回転を駆動しながらCy3-ATPの結合解離を観察することにより、80度サブステップのほうは(Cy3-)ATPの結合により直接駆動され、一方40度サブステップのほうは1つ前に結合されたATPにかかわる反応(ADPと燐酸への分解ないし燐酸の解離;ADPの解離ではない)がきっかけとなることが分かった。F_1の3つのATP結合部位のうちどこでのどういう化学反応が回転をどう駆動するかが分かりかけてきたことになる。 また、γサブユニットに蛍光色素Cy5を特異的に結合させ、一方3つの駆動サブユニットβのうちただ1つのみにCy3を結合させ、Cy3からCy5への蛍光エネルギー移動を測定することにより、ATP待ち状態における両色素間の距離を見積もることができた。その結果は、知られているF_1の結晶構造からγを回転方向に30度進めたものに一致し、結晶構造がATP待ち状態でなくその手前、ちょうど90度(ないし80度)サブステップ後の状態に相当することが示唆された。 磁気ビーズを結合させることによりF_1-ATPaseの停止トルクを測ることを試みているが、ビーズのブラウン運動を利用してトルクの絶対値が測れるようになってきた。まだ例数が少ないが、以前報告した粘性抵抗からの推定と矛盾がないようである。回転が阻害される状況下で無理に回したときのトルク応答に関し面白い結果が出つつある。 同じ磁気ビーズを用いて、ADPと燐酸存在下でF_1-ATPaseを逆回転させるとATPが合成されるはずであるが、この証明にほぼ成功し、最後の詰めを行いつつある。おそらく人類史上初めて、「力」による化学合成に成功したことになる。 F_1-ATPaseが回転するとき、3個の活性部位に何個のヌクレオチド(ATPないしADP)が結合しているのかがこの分野の研究者の間で論争となっている。具体的には、結合数が2-3-2-3-と変化して常に2個以上結合していないと回転しないという説(tri-site説)と1-2-1-2-でも回転できるという説(bi-site説)の間で決着がついていない。そこで、回転速度のATP濃度依存性を見たところ、6nMという極低濃度まで、ATP濃度と回転速度が比例することが分かった。もしtri-site説が正しいとすると、この濃度でも2個のヌクレオチドを離さないことになる。結合ヌクレオチド数の直接測定も試みている。 2.ミオシンのアクチンの周りの回転 2本足を使って歩くと考えられているミオシンVが、アクチン線維上を左ねじのように回転しながら進むことを昨年報告した。ねじのピッチとアクチンの右巻きらせんのピッチの比較から、ミオシンVはアクチン上を34.8nmという大きな歩幅であるこことが示唆された。ミオシンVは脚に相当する部分が長いので、不自然な結果ではない。 そこで今年度は、アクチン上をミオシンVと逆向きに進むミオシンVIにつき同様な測定を試みた。こちらは脚が短いと言われており、大股に歩くのは難しいと考えられる。ところが、今のところ、ミオシンVIの歩幅がミオシンVのものよりわずかに長いことを示唆する結果が得られている。脚が延びるなどのメカニズムを考える必要がありそうである。 3.リボソームの翻訳過程の可視化の試み 一分子観察のためには、リボソームを活性のある状態でガラス面へ固定させる必要がある。このために、4種のリボソームたんぱく質に各4種のタグを入れて発現させた。現在一分子観察に最適な組み合わせを選ぶ作業を行っている。 4.DNA上の分子機械 以前報告した光ピンセットによりDNAを結ぶ手法を発展させ、複数本のDNAを自在に絡ませる手段を開発した。鎖間の相互作用にかかわるたんぱく質の働きの可視化に用いる予定である。
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Research Products
(3 results)
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[Publications] Ali Md.Yiisuf., Uemura, S., Adachi, K., Itoh, H., Kinosita, K.Jr., Ishiwata, S.: "Myosin V is a left-handed spiral motor on the right-handed actin helix"Nature Struct.Biol.. 9. 464-467 (2002)
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[Publications] Masaike, T., Muneyuki, E., Noji, H., Kinosita, K.Jr., Yoshida, M.: "F_1-ATPase changes its conformations upon phosphate release"J.Biol.Chem.. 277. 21643-21649 (2002)
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[Publications] Kengo Adachi, Hiroyuki Noji, Kazuhiko Kinosita, Jr.: "Single molecular mechanics of motor proteins"Methods Enzymol.. 361. 211-227 (2003)