2003 Fiscal Year Annual Research Report
一分子生理学の立ち上げ:一個の分子機械の機能と構造変化の直接観察
Project/Area Number |
12002012
|
Research Institution | Okazaki National Research Institutes |
Principal Investigator |
木下 一彦 岡崎国立共同研究機構, 統合バイオサイエンスセンター, 教授 (30124366)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
伊藤 博康 浜松ホトニクス株式会社, 筑波研究所, 専任部員(研究職)
|
Keywords | 一分子観察 / 一分子操作 / F_1-ATPase / 蛍光性ATP / 蛍光エネルギー移動 / 磁気ピンセット / ATP合成 / ミオシン |
Research Abstract |
1.F1-ATPaseの回転機構 磁気ピンセットを用いてF1-ATPaseを強制的に逆回転させることにより、ATPを合成することができた。初めての、力による化学合成である。生理機能から合成は予想されていたが、1ヶ所に力を加えるだけで(回転角というただ一つの変数を操作するだけで)物理的に離れた活性部位での化学反応を逆行させられることを示したことに、本質的意義がある。ミオシンやキネシンの1ヶ所を引っ張って逆行させたらATP合成ができるかどうかは全く不明なのである。分子機械の機能の熱力学的「可逆性」の最初の証明である。 3つの結合部位に結合したヌクレオチドの数が1-2-1-2-…と変化しながら回転するのか(bi-site説)それとも2-3-2-3…なのか(tri-site説)は、世界中のこの分野の研究者の間で今論争になっている。結合部位内に導入したトリプトファン残基を利用した結合数の測定を行ったところ、見かけ上、tri-site説を支持する結果が出た。一方、ATP濃度を極端に減らし、0.6nMという低濃度でも回転が起きること、この低濃度まで回転速度はATP濃度に比例することを見いだした。この結果は、見かけ上bi-siteを支持する。さらに、蛍光エネルギー移動を利用して、ステップ回転中のF1分子の構造がX線結晶構造とどのように対応しているのかを突き止めたが、これも見かけ上bi-siteを支持する結果であった。 上記のように、同じ研究室の中で互いに相矛盾する結果が得られたため、いったい真実がどこにあるのか、ここ数年は正直なところ途方に暮れていた。上記に加え、蛍光性ATPを用い、回転中のF1-ATPaseに何個のATPが結合しているのか、約90度と30度の2つのサブステップのうちどのタイミングで結合しどのタイミングで加水分解生成物を解離しているのかのデータもたまってきた。また磁気ピンセットを用いてF1-ATPaseを強引に回転させながら、どの角度で蛍光性ATPが結合しどの角度で離れるかも測れた。ところがこれらの結果も、bi-siteにもみえtri-siteにも見え、決め手とならなかった。ごく最近になり、実際のメカニズムはbi-siteとtri-siteの中間的な、これまで提唱されてこなかったものだとすると、ほとんど全ての実験結果を説明出来そうなことが分かってきた。これが正しければ、近い将来、3つのATP結合部位のどこでどのような化学反応が起きたときどのサブステップが起きるのかという、F1-ATPaseの回転機構の詳細が明らかになることになる。 2.ミオシンVとミオシンVIのアクチンの周りの回転 2本足を使って歩くと考えられているミオシンVがアクチンに沿って進むとき、アクチンの回りを左回転することを昨年報告した。ここから見積もったミオシンVの歩幅は、アクチン線維の螺旋の繰り返し周期36nmよりわずかに短い34.8nmであった。今回、ミオシンVに比べて脚が短いと考えられているミオシンVIにつき同様な観察を試みた。2個の大きなビーズを橋渡しするようにアクチン線維を張っておき、その上を小さな双子ビーズを結合させたミオシンVIが動くところを観察した。双子ビーズは多くの場合回転せずにまっすぐ、あるいはピッチ数μmで右ねじのように回転しながら進んでいった。この結果は、ミオシンVIも大股に歩き、その歩幅がアクチンの螺旋周期とほとんど同じかわずかに大きいことを示す。 ミオシンVより脚の短いミオシンVIのほうが歩幅が大きいという、一見矛盾する結果をどう説明するか。ミオシンVIの脚の一部ないし肢のあたりがほどけて脚がのびると考えざるを得ない。同様なことはキネシンでも起きており、ミオシンとキネシンの歩行機構は実はよく似ているのではないか、ということを示唆する結果である。ほどけた脚は、キネシンの場合と同様グニャグニャと予想され、その柔らかい脚で負荷があってもちゃんと前進出来るのはなぜか。この疑問の答えとして、従来見過ごされてきた新しい機構を提案しつつある。 3.リボソームの翻訳過程の可視化の試み 何種類ものタグ付きリボソームを設計し、そのうち数種類のタグ付きリボソームの発現・精製に成功した。蛍光色素や微小粒子をタグに結合させることもでき、顕微鏡下の可視化に取り組んでいる。 4.DNA上の分子機械 複数本のDNAを自在に絡ませ、鎖間の相互作用にかかわるたんぱく質の働きの可視化を試みている。
|
Research Products
(7 results)
-
[Publications] Kinosita, K.Jr., Adachi, K., Itoh, H.: "Rotation of F_1-ATPase : How an ATP-driven molecular machine may work"Annu.Rev.Biophys.Biomol.Struct.. 33(in press). (2004)
-
[Publications] Shimabukuro, K., Yasuda, R., Muneyuki, E., Kinosita, K.Jr., Hara, K.Y., Yoshida, M.: "Catalysis and rotation of F_1 motor : Cleavage of ATP at the catalytic site occurs in 1 ms before 40° substep rotation"Proc.Natl.Acad.Sci.USA. 100. 14731-14736 (2003)
-
[Publications] Yasuda, R., Masaike, T., Adachi, K., Noji, H., Itoh, H., Kinosita, K.Jr.: "The ATP-waiting conformation of rotating F_1-ATPase revealed by single-pair fluorescence resonance energy transfer"Proc.Natl.Acad.Sci.USA. 100. 9314-9318 (2003)
-
[Publications] Itoh, H., Takahashi, A., Adachi, K., Noji, H., Yasuda, R., Yoshida, M., Kinosita, K.Jr.: "Mechanically-driven ATP synthesis by F_1-ATPase"Nature. 427. 465-468 (2004)
-
[Publications] Nishizaka, T., Oiwa, K., Noji, H., Kimura, S., Muneyuki, E., Yoshida, M., Kinosita, K.Jr.: "Chemo-mechanical coupling in F_1-ATPase revealed by simultaneous observation of nucleotide kinetics and rotation"Nature Struct. Mol. Biol.. 11. 142-148 (2004)
-
[Publications] Ali Md.Yusuf., Homma, K., Iwane, A.H., Adachi, K., Itoh, H., Kinoshita, K.Jr., Yanagida, T., Ikebe, M.: "Unconstrained steps of myosin VI appear longest among known molecular motors"Biophys.J.. 86(in press). (2004)
-
[Publications] 木下一彦: "生物物理学とはなにか - 未解決問題への挑戦(pp.233-239)(曽我部正博, 郷 信広編)"共立出版. 7 (2003)