Research Abstract |
林は、標準的な成長モデルを用いて,1990年代の日本経済がどうして停滞したのかを分析した。1990年前後に,日本経済に二つの構造変化があった。第一に,一人当たりの労働時間が10%低下した。第二に,全要素生産性(TFP)が,1990年代にほぼ0%に低下した。このため,経済の長期的な成長経路は,以前より低い経路に移行したと考えられる。1990年代の停滞は,このより低い成長経路への移行過程と解釈することができる。井堀は,財政について,4つの研究をおこなった。第一に,なぜ財政構造改革が先送りされるのかを,政治経済学的なアプローチを用いて説明した。第二に,課税制度と公債残高の関係を,公共財の自発的供給のモデルを用いて,理論的整理をおこなった。とくに,効率的な課税制度は,政府の規模を拡大させやすいことが判明した。第三に,政府間財政制度の理論的な分析をおこなった。地方政府が,中央政府から補助金を受けて公共投資をおこなうと,その規模は過大になることが知られている。このような無駄な財政支出を防止するような制度について,理論的分析をおこなった。第四に,税収と歳出の間の統計的な因果関係の分析を通じて,財政再建の実証分析をおこなった。塩路とブラウンは,金融政策が,利子率の期間構造・生産・資産価格におよぼす影響を,計量経済学的手法を用いて分析した。その手法は,「構造的VAR」と呼ばれる手法を,彼らが独自に発展させたものである。この手法を用いて,マネーサプライのどの要素が,日銀の政策変更によるものであるかを確定できる。この分析の結果,日銀の政策変更は,それが長期金利に及ぼす影響は軽微であるものの,短期金利・物価・生産には統計的に有意な影響を及ぼすことが確認された。
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