Research Abstract |
本研究の目的は,非侵襲的に脳の認知機能を評価可能な事象関連脳電位(ERP)を指標として,発達障害児の認知機能を客観的に評価する方法を確立することである.本年度は,注意に問題のある学習困難児(LP児)を対象に,聴覚および視覚の基本的認知機能を検討した. 1.言語音弁別 LP児の多くは,急速なピッチ変化を伴なう破裂閉鎖音の弁別が困難で,前注意過程での自動弁別を反映するERP,ミスマッチ陰性電位(MMN)が減衰・延長することが知られている.本実験では,音刺激に注意を向けているときの言語音弁別過程を検討するために,高頻度標準刺激として言語音/da/,低頻度非標的刺激として言語音/ga/,/i/,そして,低頻度標的刺激として純音をそれぞれランダム順に呈示し,純音に対してボタン押しを求めた課題遂行中のERPを検討した. その結果,LP児は,対照健常児に比べ,標的刺激に対するP300の延長・減衰だけでなく,非標的刺激に対するP300も減衰を示した.意識的に音刺激系列に注意を向けていたときでも,言語音どうしの弁別に困難を有し,これは/da/と/i/のように,大きく異なる場合にも存在することを示した. 2.視覚探索 初期視覚過程で自動的に注意を引く,ポップアウト刺激に対する反応を検討した.高頻度標準刺激として,8個の縦長・緑色の長方形をランダムに配置した図を用い,低頻度刺激として,一つを赤色に置き換えたもの,および,一つを横長に置き換えたものをそれぞれランダム順に呈示し,いずれかの低頻度刺激を標的としてボタン押しを課した. その結果,注意欠陥/多動性障害(ADHD)を持つ児は,対照健常児に比べ両条件で反応時間の延長が見られ,これは方位検出でより顕著であった,ERPの結果から,この遅れは,ポップアウト刺激に対するトップダウン的な注意資源の配分に困難がある可能性が示された.
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