Research Abstract |
本研究の目的は,非侵襲的に脳の認知機能を評価可能な事象関連脳電位(ERP)を指標として,発達障害児の認知機能を客観的に評価する方法を確立することである.昨年度の研究から,注意欠陥多動性障害(ADHD)を持つ児は,視覚ポップアウト刺激に対するトップダウン的な注意資源の配分に困難がある可能性が示された.そこで本年度はADHD児のトップダウン注意の特性を検討した. 健常成人(大学生),健常児,およびADHD児を対象とした.2色×2意味カテゴリ(動物,モノ)の4タイプの刺激をランダム順に視覚呈示し,特定の色の動物に対してボタン押しを求める選択反応課題を遂行中のERPを記録した.色弁別の困難さで2条件を設定した.4タイプの刺激に対するERPの引き算波形から色注意効果,意味カテゴリ注意効果を評価した. 健常成人では,色弁別が困難になると色効果としてのN2bが遅れ,振幅が減少した.また意味効果は色弁別が容易なときはN2b,困難なときはN2bに先行する選択陽性波(SP)として観察された. 健常児群はADHD児群よりも高い行動成績(反応時間,正反応率,誤反応率)を示したが,両者の差は統計的に有意ではなかった. 健常児,ADHD児共に,色効果としてのN2bは成人と同様の傾向を示した.加えて,ADHD児はこれに先行するSPも惹起した.また,両群とも,色弁別の困難さに関わらず意味効果としてSPを惹起し,その振幅はADHD児で大きかった. これらの結果から,(1)健常成人は,色弁別が容易なときには色→意味,困難なときには意味→色の順で選択を行う,(2)健常児,ADHD児共に,色弁別が容易であっても意味の選択が先行する,そして,(3)ADHD児は,行動上は健常児と有意差のない成績を示す場合であっても,色や意味カテゴリの選択に健常児よりも多くの処理資源を配分し,注意の問題を補償していることが示された.
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