2001 Fiscal Year Annual Research Report
イタリアにおける《庶民》の発見とその《国民》への変容過程の研究
Project/Area Number |
12410124
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
齊藤 泰弘 京都大学, 文学研究科, 教授 (70115848)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
天野 恵 京都大学, 文学研究科, 助教授 (90175927)
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Keywords | イタリア / 国民 / 演劇 / ヴェネツィア / ゴルドーニ / リソルジメント / マンゾーニ / 文学 |
Research Abstract |
研究代表者である斎藤泰弘は本務校の夏期休暇を利用してヴェネツィアに赴き、特にサン・マルコ図書館およびコッレール博物館付属図書館で、18世紀ヴェネツィア演劇の背景をなした政治情勢に関する現地調査を行なった。この調査は、同世紀後半、政治体制の近代化をめざして当時の保守派に反旗を翻したアンジェロ・クェリーニ派に関する、未公刊の報告書や書簡類を対象とするものである。中産階級が未成熟で準貴族化しており、しかも政治から締め出されていたヴェネツィアにあっては、近代化への動きもこうした貴族社会内部の対立としてのみ顕在化せざるを得なかった。従って、旧体制の崩壊と社会の近代化にはナポレオンの侵攻を待つことになるが、これに先立つ社会的胎動は、演劇をはじめとする文化面において無視しがたい刻印を残しており、《庶民》から《国民》への変容過程を追う本研究にとっては欠かすことのできないものである。 研究分担者の天野恵は、マンゾーニの初期作品のうち悲劇『カルマニョーラ伯』と『アデルキ』の草稿をそれぞれ分析したG.BardazziおよびI.Becherucciの研究を出発点として、マンゾーニの内部で「イタリア国民」の概念が時間の経過あるいは創作の進行とともに遂げていった変化を跡づける試みを行なった。とりあえず明らかになったのは、『アデルキ』創作過程の恐らくは最終段階において、作者の主眼がロンゴバルド、ラテン両民族の統一をめざすロマン主義的英雄像の構築から、「イタリア国民」の実態に関して史実により忠実な作品展開へとシフトし、これにともなって主人公の性格に大きなモディファイが加えられたこと、また長編小説Fermo e Lusiaの創作はこれとは別に、それよりもはるか以前、いわば第1段階の『アデルキ』を中断するかたちですでに開始されていたこと等の事実である。
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