Research Abstract |
今年度は,これまでに開発したさまざまな固体NMR法を用いて,これまで適当な分光学的手段が存在しなかったために構造が決まらなかった包接化合物の構造,特に,ゲスト-ホスト分子間相互作用を研究する目的で,前年度に合成したメチル基の水素を重水素で,炭素を炭素13で同位体置換したγ-バレロラクトンをカルボニル基炭素を炭素13で同位体置換したコール酸に包接させた試料を作成した.コール酸はγ-バレロラクトンの鏡像異性体(S体,R体)を見分けて一方をより好んで包接することが知られているが,S, R体の並びの構造は決定されていない.この試料に対して,S, R体それぞれのメチル基の炭素13間の1次元スピン拡散測定を行い,コール酸中のS体,R体の並び方をn次のマルコフ過程を仮定したモデルをもとにシミュレートして,解析することが出来た.その結果,例えば,R体が一旦包接されるとR体の鋳型ができ,引き続いてR体が包接されやすくなることを示すことが出来た.これは,分子の認識機構の主なメカニズムの一つの典型的な実験的な検証になっていると考えられる.さらに,γ-バレロラクトンのメチル基炭素13とカルボニル基の1炭素13間のスピン拡散測定を行い,ホスト-ゲストの相互作用位置を検討した.また,スピン拡散測定の高効率化の模索の中で,^1H-^<13>C dipolar-assisted rotational resonance法という手法を開発した.これは,多スピン系の試料を用いて、多数のおおまかな距離情報を一度に決定するという,これまでに希求されてきたが実現されていなかった固体NMR法であり,Chem. Phys. Lett., 344, 631-637 (2001)に報告した.この手法では,観測核スピンへのラジオ波照射を必要としないために,距離測定時間の制限が一般的に長い縦緩和時間になる.つまり,長距離の測定が行えるという大きな利点がある.また,観測は高分解能の条件で行うことが可能であり,他にも多スピン系への応用に適した特性を持っていることを示すことが出来た.
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