2000 Fiscal Year Annual Research Report
東アジアの伝統的「場所表現」による地理的思想の「地域論」的研究
Project/Area Number |
12480017
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Research Institution | International Research Center for Japanese Studies |
Principal Investigator |
千田 稔 国際日本文化研究センター, 研究部, 教授 (20079403)
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Keywords | 地誌 / 山海経 / 漢書地理志 / 吉田東伍 / 大日本地名辞書 / 風土記 / 和名抄 / 明治 |
Research Abstract |
本研究は、、前半は中国の『山海経』と「漢書地理志」の構成と地誌的叙述の特質を析出する試みをした。前者については、小川琢治『支那歴史地理研究』をてががかりにして、各地域の動植物・鉱物や産物などを空想的にとりあげかつ神話的内容に富む地誌書の分析手法について検討した。また「漢書地理志」に関しては、領域支配に編纂の目的があり、わが国の古風土記もその延長線上にあるのだが、ヨーロッパの場合、この種の地誌書が存在したかどうかという、比較論の素材として検討すべきとする今後の方針を明確にした。後半期には、1907年(明治40年)に完成した吉田東伍の『大日本地名辞書』の成立事情に焦点をあてた。吉田東伍の伝記、本辞書完成までの経緯、本辞書の構成、刊本と稿本の比較、さらに本辞書が当時においてもった意味などを分析した。先にみたような行政的な目的を持たないという点で相違するが、一方では吉田東伍という人物の地政学的思想と本辞書の関連性について考察した。今年度の研究で明らかになったことは、(1)吉田東伍が『日韓古史断』という著作で、韓国併合の意味づけを歴史的にしたということによって、大日本帝国の植民地拡大政策を支持したこと、(2)その根拠をこの帝国は古代的天皇制に範をとって成立し、『日本書紀』などの朝鮮半島との外交記事によって正統化したこと、(3)そのような吉田東伍の時代認識が、『大日本地名辞書』の基本的項目に古代に編纂された『和名抄』の郷をおき、すべての地名はそれに属する形式で叙述されたことなどである。したがって、従来からいわれてきた、本辞書が古代地名辞典という性格をもつという、意味の本質は、明治国家のあり方と連動すると言うことが指摘できる。次年度はより細部に吉田の思想と、古風土記などの地名との対比をおこなうことになろう。
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