Research Abstract |
本研究は,生理過程に基づく水稲生育モデルと3次元形態情報を有機的に関連付けることによって,実用的で多分野へ応用可能な生育シミュレータを開発しようとするものである。開発を試みるシミュレータは,イネの基本構造に関するモジュールと生理機能に関するモジュールから構成される。本年度は昨年度に引き続き,基本構造に関する基礎情報を収集してそのモデル化を行うとともに,生産に関与する主要な生理過程である光合成速度を葉身窒素,CO_2濃度および光強度からモデル化した。イネの基本構造は主として葉数,分げつ芽数,分げつの生長,葉身,稈,穂の形態によって決定される。このうち,発育,主稈総葉数,分げつ増加に関するサブモデルの妥当性を,富山県における過去15年間のコシヒカリ作況試験データを検討した。その結果,気温および日長の関数からなる発育サブモデルは,出穂期の変動と葉齢の動態を高精度で捉え得ることがわかった。分げつ数サブモデルは,分げつ出現歩合に温度の関数で導入することによって,分げつ増加の年次変動をよく説明した。また,京都および札幌にて行ったコシヒカリのポット試験から,葉身長,葉幅を分げつ節位ごとの葉位の関数として示すモデルを提示した。穂の着粒構造を頂端分裂組織の成長停止,それに伴う分枝原基の分化開始およびその成長抑制からモデル化したところ,モデルパラメータを変化させるだけで,さまざまなサイズ,形の穂をシミュレートすることが可能であった。光合成速度にFarquhar modelを適用したところ,異なる葉身窒素,発育ステージ,光環境の影響をよく説明することがわかった。今後,以上のサブモデルを統合するとともに,各器官の空間配置,乾物,窒素の分配などを導入する予定である。
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