Research Abstract |
高生体活性化のための電気化学処理条件の最適化を試みたが,骨芽細胞を用いた細胞適合性評価および家兎を用いたin vivo評価では,陽極酸化9.5Vを1時間及び陰極分極-2.0Vを10minによる電気化学処理条件の検討によって,表面に向かって多くの骨が成長した様子が観察された。これは,陰極分極時間が長くなる程,試料表面に電着するカルシウム量が多くなり,表面層に存在するカルシウムイオンの分布及び濃度の増加によって,骨伝導性が向上することを示唆している。このような電気化学的手法により明らかになった知見に基づき,金属チタン表面の酸化チタン層中のカルシウムイオン分布および濃度を向上させる方法として,金属チタンの陽極酸化のかわりに過酸化水素水溶液による酸化処理と400℃,1時間の熱処理を施し,その後,陰極分極により,表面の酸化チタン層へのカルシウムイオンの導入を行った。また,比較として陰極分極の代わりにカルシウムイオン含有水溶液に,酸化チタン層を形成させた金属チタン試片を浸漬し,カルシウムイオンの導入を行った。擬似体液を用いたin vitro評価法により,生体活性を調べた。 過酸化水素水溶液による酸化処理及び熱処理の後,陰極分極を施した金属チタン試片表面の酸化チタン層には多量のカルシウムが導入され,擬似体液中で1日以内にアパタイトを析出した。一方,カルシウムイオン含有水溶液への前浸漬により,過酸化水素水溶液による酸化処理により形成した表面の酸化チタン層にはカルシウムが導入され,擬似体液中で3日以内にアパタイトを析出したが,カルシウムイオン含有水溶液に前浸漬しない試片や電気化学処理で生体活性化された金属チタン試片と比べると,アパタイト微粒子のサイズが小さく,より緻密なアパタイト層の形成が確認された。この原因として,過酸化水素水溶液処理では陽極酸化処理と異なり,100-300nmのサブマイクロスケールの多孔構造を有する酸化チタン層が形成し,これにカルシウムイオンがより高い濃度で分布することによって,アパタイト析出能力が高くなったと言える。しかし,カルシウムイオン含有水溶液に浸漬後,熱処理を施した場合には,アパタイト析出能が低下した。これは,擬似体液中でのカルシウムイオンの溶解性が低下したことにより,アパタイトに対する過飽和度の上昇に寄与するカルシウムイオン量が減少したためと考えられる。
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