2002 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
12610032
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Research Institution | IWATE UNIVERSITY |
Principal Investigator |
池田 成一 岩手大学, 人文社会科学部, 教授 (50193199)
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Keywords | 想像力 / スミス / フッサール / フロイト / 記憶 |
Research Abstract |
14年度は、これまでに引き続き(1)「想像力」をめぐる一般的問題状況(2)スミスおよびルソーに至る17,18世紀の「想像力論」と近代市民社会の発展との関連(3)カント、フィヒテからドイツ・ロマン派に至る「想像力」論の新展開(4)20世紀の現象学と精神分析における「想像力」論の現代的位相、について資料収集と分析を行った。その結果得られた、13年度の研究実績報告書に記載の論点以外の新たな論点は、次のようなものである。 1、スミスに典型をみる、近代市民社会の倫理的基礎としての「想像力」論が成立するにあたっては、エリアスのいう「文明化」の理論の進展が必要であった。その中で、ルネサンスからシャフツベリ、マンデヴィル等を経由し、最初に美と善との一体化の能力と考えられていた「想像力」が、スミスによって、美と切り離されて、倫理的想像力に純化された。ここには、近代消費社会の発展に伴う、美の相対性の認識が大きく作用した。 2、ロマン主義的想像力は、美の相対性を前提としながら、「天才」「個性」論を全面に押し出すことによって、想像力と美の関係を回復し、一種の「個性」の倫理学を、スミス的な、日常的市民の倫理に対置しようとしたものと理解される。しかし、スミスの「見えざる手」の議論からの連続性も無視されるべきではない。 3、20世紀における想像力論としては、フッサールからサルトルにいたる現象学的「想像力論」の他に、精神分析における「想像力」(=「空想」)の理論が重要であり、この二つの想像力論の対立、あるいは、それぞれの内部における対立が鍵となる。しかしさらにごく最近においては、「想像力」の問題は、その根底にあると考えられた「記憶」「想起」の問題に集約されつつあるが、これは19世紀的なロマン主義的想像力に徹底的に対立するものであり、それに対する反省の上になりたっているものと考えられる。
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