2002 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
12610057
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
安西 信一 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 助教授 (50232088)
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Keywords | イギリス / 美学 / 庭園 |
Research Abstract |
本年度は若干視野を広げて、開かれた風景式庭園とピクチャレスクの美学を基調とする、美的環境造形思想におけるイギリス的伝統が、その後、イギリスの帝国主義的拡大にともなって、現代までの美的環境造形にどのような意義をもってきたかを、歴史的・批判的に考察した。まず重要なトピックとして、十九世紀にイギリス国内でピクチャレスクなものが「イギリス性」のイコンになってゆくことを取り上げた。特に風景画家、ジョン・コンスタプルにおけるそのような意識の自覚的発現と、同時代における彼の版画の流通にみるイギリス的風景の物神化について研究した。同じトピックにかんして、十九世紀に新しい展開を見せたイギリスの公園が、同時代のブルジョワ的な娯楽の考え方に支配されながらも、基本的には風景式庭園の語彙や美学を踏襲しつつ、エキゾチックなピクチャレスクとも呼ぶものを展開していることを、たとえばキュー庭園の歴史に即して見た。その際、いわゆるプラント・ハンターと呼ばれる博物学的植物収集家たちが重要な役割を果たしたことも確認した。またそれと関連することであるが、江戸末期の日本を旅行したサー・ラザフォード・オールコックのようなイギリス人が、いかに日本のような異国の地をピクチャレスクなイギリス風景式庭園と見たのかも、出来る限り実証的に研究した。さらに、現代イギリスの黒人写真家、イングリッド・ポラードのような芸術家が、いかに反植民地主義的・反帝国主義的な視点からイギリスの美的環境造形の伝統と批判的に対持しているかをも考察した。最後に、たとえば芭蕉のような日本の風景観、あるいは洗練された美的強度をもつ伝統的な日本庭園などとイギリス的な伝統とを比較することで、現代におけるイギリス的伝統の支配にたいする批判的な対決を行い、そこからたとえば閉ざされた庭の復権を含む、新しい美的環境造形思想の提出を試みた。
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Research Products
(2 results)