Research Abstract |
本研究は,(1)反復盲,(2)負のプライミング,(3)指示忘却という3種の記憶現象を取り上げ,発達段階の異なる健常者群,および,障害の性質や度合いの異なる患者群を対象に,これらの現象がどのように出現するかを検討した.今年度は特に,健常成人を対象にこれまでに開発してきた検査課題を,発達段階の異なる児童群に実施した。さらに,前頭葉損傷患者群とコルサコフ症候群患者群,年齢と知能を照応させた健常統制群を対象に,2種類の異なる負のプライミング課題を実施した。 児童を対象とした実験では,担任教師によって注意に問題があると評定された児童群と,そうした注意の問題が認められない児童群との間で,どのような種類の検査課題において遂行に差が生じるかを検討した。この結果,意図的抑制を要求する停止信号型課題,ならびに,注意の持続を要求するCPT型課題を実施した場合に,特に低学年と中学年の発達段階で,注意に問題があると評定された児童群は,そうでない児童と比較して,有意に遂行が劣ることが明らかになった.しかし,注意問題児における反応抑制と持続的注意機能における成績低下は,高学年の発達段階では確認できなかった. 前頭葉障害が指摘される患者群を対象とした実験では,フランカー課題とモダリティ間干渉課題を実施した.この結果,前頭葉損傷患者は健常統制群に比べ,負のプライミング効果がより出現しにくかったのに対し,干渉効果は同程度に確認された.間脳性健忘の典型であるコルサコフ症候群は,統制群と比較して,反応時間全体が顕著に増大していたものの,負のプライミングと干渉の両効果ともに有意に出現していた. 以上のような実証的検討により,本研究の中で開発された検査課題は,健常児における抑制機能の発達的推移,あるいは,前頭葉損傷やコルサコフ健忘症に認められる抑制機能障害を査定するために有効であることが示唆された.
|