Research Abstract |
本研究の目的は女性の乳癌患者を対象にして,彼女らの死の不安,再発・転移の不安を探究し,その不安の克服(coping)過程に及ぼす,母性感情(母性愛)の効果を考察することである。研究方法には書記的方法(written account)と投影法(projective method)を用いた。対象者は京都警察病院乳腺外科患者群16名,年齢範囲34歳〜80歳,および乳癌患者の会の会員14名,年齢範囲37歳〜58歳であり,全対象者を1群:幼い子どもを持つ若い母親,2群:高校生以上の子どもをもつ母親,3群:独身の女性の3群に分類した。 1.書記的方法 書記的方法の一つである手記を用いて,全対象者に癌の告知,入院,手術,退院,退院後の生活を通して自分の気持ち,心のうごきなどを自由に書いて持参または郵送してほしいと依頼した(枚数は自由)。 2.投影法の実施 ロールシャッハ・テストを個別法で行い,遠方の人にはPFテスト(絵画欲求不満テスト)を郵送して依頼した。また,家族のいる人には夫や子どもにもPFを行ってもらうよう依頼した。 3.結果(1)手記の内容に示された感情を否定的表現,肯定的表現,家族についての表現,病院に関する表現,癌や乳房に関する表現,克服表現を中心に分析した。1群の若い母親は,書記の段階では子どもを残してこの世を去ることの苦しみと悲しみにうち沈むが,必ずそこから立ち上がり,この子を残して死ねるものか,強く生きていこうと闘志を燃やすようになる。他の2群に比べてその克服の方法は顕著に異なっている。(2)ロールシャッハ・テスト反応では,1群のすべての対象者が解剖反応(内臓,骨盤など)を示し,他の2群と有意な差が見られた。これは身体への関心と不安を示唆している。また通景反応と植物反応も,3群に共通して,健常者群に比べて多く産出された。(3)家族に施行したPFテストの結果には個人差が多く,今後の研究課題である。
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