Research Abstract |
アメリカにおける癌患者を対象としたストレス克服の研究では,癌の克服がうまくいくかどうかは,人種,生別,職業,収入,学歴などとは殆ど関係がなく,年齢が最も重要な要因であることが指摘されている。筆者のこれまでの研究では,年齢の若い女性,とくに小さい子どもを持った母親がワトソンらのいう癌克服のひとつの様式であるfighting spiritを用いて前向きに生きていくことが見い出された。その要因は母性感情であることが予測される。そこで本研究では,(1)小さい子どもを持つ乳癌患者(母親)20名(32歳〜45歳),(2)子どもが成人した乳癌患者15名(70歳以上),(3)子どものいない結婚した女性(5名),(4)独身女性(5名)の4群を対象としたが,結果の分析には主として(1)群と(2)群を用いた。方法は,まず個別法でロールシャッハ・テストを施行した。その直後にカウンセリングを行った。被験者には,癌の告知後,入院,手術,退院,退院後の生活における自分の心境を自由に手記の形でまとめてもらうように依頼した(2000字以内)。手記を持参した日に,ロールシャッハ・テストの結果を説明した。手記は全被験者から回収できた。 結果の要約は次のとおりである。 1)子どもをもつ若い母親の手記には,他の群に比べて,「この子を残して死ねるものか」という母性愛が切々と語られていて,愛情表現の数には有意差が見られた。 2)ストレス克服の様式は,第1群では闘志が最も多く,第2群ではワトソンらのいう運命主義が多くみられた。 3)ロールシャッハ・テスト反応では,通景(FK)反応が全般的に多くみられ,癌について客観的に考えようとする姿勢がうかがわれた。また平凡反応(P)も平均より多く出現し,癌患者の常識的行動が示唆された。若い母親の半数以上が図版の中に子どもに関する内容(ぬいぐるみ,子どもが笑っている,など)を多く示した。
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