2001 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
12610216
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Research Institution | Osaka Sangyo University |
Principal Investigator |
北野 雄士 大阪産業大学, 人間環境学部, 助教授 (70177856)
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Keywords | ナショナリズム / 武士 / 横井小楠 / 華夷思想 / 朱子学 / 大塚退野 / 平野深淵 / 理 |
Research Abstract |
平成13年度は、熊本藩の武士のナショナリズム、特に幕末に活躍した横井小楠のナショナリズムを中心に研究を進めた。小楠のナショナリズムの重要な特質は、当時の多くの武士が捉えられていた華夷思想すなわち日本を文明の中心とし西洋を野蛮とみなす思想から自由だった点にある。この特質は小楠の思想的柔軟性とともに朱子学の影響によるところが大きいと考えられる。小楠が朱子学から受けた影響を考察するには、朱子のテキストを通じての直接的影響のみならず、小楠が尊敬した17世紀熊本藩の二人の朱子学者すなわち大塚退野と平野深淵からの影響を考慮しなければならない。 そこで本年度は、主にこの二人に関する文献の収集と、二人が残した文章の解読を行った。その結果、「理」は時間と場所を越えて妥当するという信念が退野と深淵に共通してみられ、小楠もこの信念を共有していることが明らかになった。 小楠はこの「理」を「天地仁義之大道」などと言い換え、日本の国内政治においても対外政治においてもこの原理が妥当すると考えた。小楠によれば、この原理に従っている国が文明国であり、日本や中国であってもこの原理からはずれていれば野蛮国であった。小楠はこのように文明/野蛮の区別を相対化し、西洋諸国の情報に接して、現在の日本や中国は野蛮国に堕していると断定した。小楠はこの思想に基づいて幕府の反民衆的な制作を批判したが、天皇を頂点とする日本の政治体制の固有性と意義は認め、その体制を国際社会の中で守っていくことを主張している点ではナショナリストであったといえる。しかし、前述した華夷思想から自由な立場に立って、国際社会において「天地仁義之大道」の実現を目指すという新しい国家目標を構想した点ではインターナショナルな思想家であった。
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