2003 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
12610216
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Research Institution | Osaka Sangyo University |
Principal Investigator |
北野 雄士 大阪産業大学, 人間環境学部, 助教授 (70177856)
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Keywords | 近世武士層 / ナショナリズム / 水戸学 / 儒教的正義観 / 国体論 / 横井小楠 / 易姓革命 / 吉田松陰 |
Research Abstract |
今年度は、近世武士層のナショナリズムの中でも、特に影響力の大きかった後期水戸学の理解を前期水戸学と比較することで深化させ、昨年より広い視野から、後期水戸学が幕末の武士層にどのように受容されたかという問題を考察した。後期水戸学は、前期水戸学のように儒教的正義観の高みに立って歴代の天皇をも賞賛、断罪する態度を批判し、皇室に関わる様々な問題をタブー視し、神秘化した。さらに、後期水戸学は、日本独自の民族的特質を、中国のように「易姓革命」がなく、天皇家の皇統が持続していることに求めた(国体論)。 このような特徴を持つ後期水戸学の著作は、幕末の武士層に広く読まれて、一つの「想像の共同体」を形成し、彼らの横の連帯に寄与した。しかし、その受容のあり方は多様だった。例えば、水戸を訪れ水戸学者に接して多大な影響を受けた吉田松陰は、国体崇拝の傾向を強化し、天下は天皇一人の天下であるとして天皇に対する批判を許さず、天皇の絶対化を推進し、これによって攘夷運動を活性化しようとした。 これに対して、長年水戸学の影響下にあった横井小楠は、ペリー来航後の水戸藩主徳川斉昭の融和的な政治的態度に深く失望して以来、後期水戸学それ自体に疑問を抱くようになった。その結果、日本を「中華」とみる後期水戸学の国体思想を批判し、本来民衆の生活の豊かさと平和に配慮する国が「華」であり、そうでない国は「夷」であるとして、今や日本、中国は「夷」に成り下がっていると嘆いた。このようにして小楠は、後期水戸学の「華夷思想」を克服し、ある意味では前期水戸学に立ち帰って、政治指導者の中に儒教的正義観に基づく、政治に対する批判精神を養成しようと努力した。
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Research Products
(2 results)