2002 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
12610476
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Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
小田 友弥 山形大学, 教育学部, 教授 (20085468)
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Keywords | ロマン主義 / 自然美 / 崇高 / ピクチャレスク / 旅行記 / 湖水地方 / 地方史 |
Research Abstract |
平成12,13年度には18世紀後半から1850年までに出版された湖水地方旅行書の内容を調査した。その結果、『湖水案内』には『グラスミアの我が家』以来のワーズワスの湖水地方観が反映され、湖水地方への旅行案内であると同時に、「羊飼いと農民の完全な共和国」という一種の理想郷への案内ともなっている点に、この書の最大の特徴があることが明らかになった。しかもこの共和国の住民(つまり、ステーツマンと称される小自立農)は、湖水地方の景観形成の重要な役割を担う人々でもあった。 平成14年度には、19世紀後半の湖水地方旅行書について内容を調査する作業を続行するとともに、ワーズワスが「羊飼いと農民の完全な共和国」が出現するまでの経緯を、太古以来の湖水地方史を辿りながら説明している点に注目した。イギリスでは18世紀に各地の地方史が出版され、湖水地方に関する歴史書も数冊刊行されている。私は『湖水案内』で述べられている湖水地方史と、こうした歴史書の内容を比較した。その結果、ワーズワスは表面的にはT. West, The Antiquities of Furness(1774)等の代表的な先行湖水地方史に依拠する姿勢を見せているが、実際は原典に大幅な削除や修正を施し、原著者の声の封じ込めを図っていることが明らかになった。彼の湖水地方史が前例から逸脱することになった理由としては、前述の「共和国」が山岳地や谷筋の上流に存在したという自己の主張を客観化するため、独自の湖水地方史を「創造」する必要に迫られたことがあげられよう。 『湖水案内』はこれまで幾つかの視点から研究されてきたが、その歴史観が検討対象となることはなかった。そのために、同時代の湖水地方史と比較しながらその由来や客観性を取り上げた本研究は、『湖水案内』研究に新しい分野を開くものと思われる。研究成果報告書は、以上の新知見を中心にまとめた。
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Research Products
(1 results)