2002 Fiscal Year Annual Research Report
17世紀イギリスの検閲および政治社会的抑圧が隠喩表象の発達に及ぼした影響の研究
Project/Area Number |
12610485
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Research Institution | Ochanomizu University |
Principal Investigator |
松崎 毅 お茶の水女子大学, 文教育学部, 助教授 (40190441)
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Keywords | イギリス内乱 / 王党派 / 隠喩 / ジャンル / アイザック・ウォルトン |
Research Abstract |
本年度は、コード化の枠組みが神話や聖書などの間テクスト的な文脈ではなく一般的事象や時事的な文脈にあり、そのため極めて不明瞭かつ暗示的になされる政治的言説の問題、また、コード化の枠組みが不明瞭なこれらの政治的言説の表出/隠蔽にジャンルの使用がいかに関わるかという問題を考察した。問題を隠喩表象という当初の枠組みからこのように一般化したため、対象とするテクストも主として韻文から散文へと移行することになった。特に本年度は、英国内乱末期の王党派への政治社会的抑圧と密接に関わるテクストとして近年注目されているアイザック・ウォルトンの『釣魚大全』に注目し、この著作で行われている政治的・論争的言説にジャンルの使用がどのように関わっているか、また、コード化の枠組みが不明瞭な政治的言説が、散文の著作の中では「寓意」というかたちで表出/隠蔽されるのではないかという仮説を検証した。これにより明らかになったのは、第一に、この著作の中では、失われた黄金時代への希求をうたう牧歌(pastoral)というジャンルの使用が、内乱が否定した国教会信仰の擁護に関わる政治的言説の表出に利用されており、さらに、実用書の一種である「大全」というジャンルの使用がそのような政治的意図を隠蔽しているという事実、第二に、作品の冒頭近くに置かれた「川獺狩り」のエピソードが、国王の処刑を糾弾し、国教会のリベラルな伝統の復活を求めるための寓意として用いられているという点である。これは論文として近く刊行されるが、同時に、内乱期の政治社会的抑圧がこの時代の隠喩表象・寓意表象を間テクスト性に依存するものからより一般的で時事的な文脈に根差す暗示的なものへと変化させ、そこにはジャンルの使用が密接に関わっていたという全体的な論点を現在研究成果報告書としてまとめている。、
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