2002 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
12610489
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
滝川 睦 名古屋大学, 文学研究科, 助教授 (90179573)
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Keywords | 近代初期英国 / 中傷文学 / 中傷 / 教会裁判所 / 証言録取書 / シェイクスピア / 主体性 / 自己劇化 |
Research Abstract |
今年度は、平成12、13年度に引き続き、近代初期英国における中傷文学(literature of Slander)に表象された中傷概念と、同時代の教会裁判所(Church Courts)の証言録取書(宣誓証言)-depositions-に表された中傷概念との関連性を分析した。中傷文学の系譜を形成する道徳劇(Moralities)、インタルード(Interludes)、Shakespeare、Ben Jonsonの劇作品、William PrynneのHistorio-Mastix : The Player's Scourge or, Actor's Tragedy(1633年)等を分析の対象とした。特に、ShakespeareのOthello(1603-04年頃初演)に表象された中傷と、劇の諸テーマとの関連性を、Durhamの教会裁判所に記録された、1570年初頭に起きた中傷事件の証言録取書およびR.H.Helmholz編Select Cases on Defamation to 1600(1985年)に所収された宣誓証言を用いて、実証的に分析した。この分析によって明らかになったことは、以下のとおりである。 1.Othelloにおける中傷の特徴のひとつは、それがプライヴェートな場で生成され、公の場に流布されていく過程において、女主人公Desdemonaの「主体性」・「声」(agency)-文化が割り当てる種種の意味に抵抗する、あるいは書き直す力-を奪っていくこと。 2.Iagoの中傷によって、Othelloが選択する「自己劇化」(self-dramatization)の身振りは、中傷を核にして結晶化した近代初期英国の民衆文化特有の、寝取られ亭主の身振りであること。
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