2001 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
12610492
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
野谷 啓二 神戸大学, 国際文化学部, 助教授 (80164698)
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Keywords | T.S.エリオット / グレアム・グリーン |
Research Abstract |
エリオットはアングロ・カトリックの代表的な詩人・批評家である。After strange Godsは、中世主義に基づいた正統なキリスト教社会を構想する上で、母国アメリカの南部がどのような意義を持っていたか十全に示している。まず、ヴァージニアは、一九一九年に発表したエッセイ「伝統と個人の才能」を「再定式化」するに、ふさわしい場所だと述べる。伝統が外国からの移民の流入によって抹消されてしまった北部と、そもそも根付かなかった西部とは異なり、南部は伝統というものの記憶を依然として有している貴重な場所だからだ。「伝統と個人の才能」で、詩人の不可欠の要件として挙げられていた「歴史意識」。過去の過去性だけではなく、その現在性をも認識する感覚の重要性。この伝統という概念を補完する形で正統がどのように導入されてくるか、われわれはこの論考によって知ることができる。序文の末尾に掲げられたヴァージニア大学への賛辞には、つぎのような言葉が見える。「私はこのような教育機関が過去とのコミュニケーションを維持するように奨励することができればと思う。そうすることによってそれがコミューケションを取る価値のある未来とのコミュニケーションを維持していくことができるからである」。この「コミュニケーション」という言葉には、エリオットの正統論の核心を理解するための糸口が示されている。過去に生きた人々との「今・ここ」における交わりは、「リトル・ギディング」の"the communication / Of the dead is tongued with fire beyond the language of the living"という詩句を想起させるものであり、教会コミュニティの秘蹟を通して可能となるコミュニオンと容易に結びつく。この世を後にした死者をも含むすべての人間の共同体である教会が聖体を受けることによって時空を越えた対話が可能となるからである。近代の分裂した個人を超克する中世的な共同体が構想される必要をエリオットは感じていた。
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Research Products
(2 results)