2000 Fiscal Year Annual Research Report
精神病をめぐる英国ルネサンス社会の実態とエリザベス朝演劇における狂気の表象
Project/Area Number |
12610506
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Research Institution | Gakushuin University |
Principal Investigator |
中野 春夫 学習院大学, 文学部, 教授 (30198163)
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Keywords | 英国ルネサンス社会 / エリザベス朝演劇 / 精神病 |
Research Abstract |
本研究の対象は、精神病および精神障害をめぐる英国ルネサンス社会の実態とエリザベス朝演劇におけるその表象との関係である。 シェイクスピア劇をはじめエリザベス朝演劇では、精神病もしくは精神障害への言及が頻出する。本年度は、リア王、オフィーリア、マクベス、マクベス夫人を主な対象とした。エリザベス朝のさまざまな社会、経済、政治的現象を考えてみると、「黄金時代」神話とは裏腹に、この時代には精神病を生みだす多くの土壌があったことが推測される。本年度においては、リア王、オフィーリア、マクベス、マクベス夫の症例を、救貧法による労働の強制、当時常に強調される身分制度、臣従関係の遵守、人口膨張による賃銀水準の低下および失業率増大、そして、障害者、女性、子供、老人への法的な差別の観点から考察した。 その結果判明したことは、おそらくエリザベス朝社会ほど精神病を生む社会的束縛が強かった時代はなかったと言っても過言ではないことである。真実、リア王やオフィーリアの例を別としても、救貧法の改正やベツレヘム慈善院の存在は、当時の社会において精神病患者と精神障害者の数がけっして少なくはなかったことを暗示している。 とりわけ本年度の調査によって挙げられた成果のうちもっとも重要なのは、精神病にかかる人間が政治的経済的弱者だけでなく、マクベスやリアのように権力側の人間でもあったことが判明したことである。この現象は社会的差別の網の目がエリザベス朝社会において強国に張りめぐらされていたことを示している。
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