2003 Fiscal Year Annual Research Report
精神病をめぐる英国ルネサンス社会の実態とエリザベス朝演劇における狂気の表象
Project/Area Number |
12610506
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Research Institution | Gakushuin University |
Principal Investigator |
中野 春夫 学習院大学, 文学部, 教授 (30198163)
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Keywords | エリザベス朝演劇 / シェイクスピア / 狂気 / 英国ルネサンス社会 |
Research Abstract |
本年度は過去3年間で得られたデータおよび情報の整理をおこない、従来の成果に加えていくつかの興味深い問題が浮かびあがってきた。 ポゼッション(悪魔憑き)が典型的な例となるが、同時代の文献で描かれている精神病の症状はきわめて画一的である。その大きな理由の一つは、どの文献も多かれ少なかれ先行する権威ある文献の描写をそのまま採用してしまうことにある。結果として、精神病の症状は医学文献において決まったパターンをもってしまっている。エリザベス朝演劇における狂気の表象は多かれ少なかれ、このパターンを踏まえており、言い換えれば精神病は、ペストやインフルエンザのように決まった症状で現れるように描かれている。 もう一点、面白い現象は「オオカミ熱」を例とする多重人格の描写である。現実に存在したかは別として、当時の医学文献は「オオカミ熱」にたいして例外なく言及しているが、その言及された症状もきわめて画一的である。それどころか多重人格に与えられた獣性の症状は、まったく当時の「ジェントルマン」理念と形容詞のレヴェルで対照的なものとなっている。このことは、医学文献およびエリザベス朝演劇において狂気の表象がきわめて人為的につくりあげられたものであることを強く示唆している。 以上、本年度に得られた成果を加えて、最終的な報告書を作成する予定である。
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