2000 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
12610511
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Research Institution | Hosei University |
Principal Investigator |
結城 英雄 法政大学, 文学部, 教授 (70210581)
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Keywords | ジェイムズ・ジョイス / フィネガンズ・ウェイク |
Research Abstract |
本年度は『フィネガンズ・ウェイク』の第一巻第一章から第四章について、現行のテクストに到る創作過程を比較・検討し、その知の方位を析出した。具体的な作業としては、第一草稿から最終の校正刷りに到る十段階をパラグラフごとに比較・検討し、その主要な意味の束を確定し、章ごとの仕組みを探ることにした。その結果、明らかにされたのは、基本的な意味の束に拠って立ち、言語上の実験が試みられていることであった。逆に言えば、表層の意味の氾濫を楽しむためにも、基本的な意味の束を確認していくことが是非とも必要だということである。その一方、基本的な意味の束と表層との間に截然とした区別をすることが容易ではないことも判明した。表層の意味の氾濫は基本的な意味の束から帰結されているからである。そこで重要となるのがテクストを支える知の方位である。本年度は歴史という方面からその問題に取り組むことで、アイルランド史の非連続性とカバン語もしくはモンタージュの手法との関連を導くことができた。要するに、『フィネガンズ・ウェイク』というテクストは内容と形式を一致させながら、脱中心化の宇宙を身振りしていることになる。そのことが伝統的な小説手法からの逸脱であるのかどうかは今後の課題として念頭に置かねばならないだろう。
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Research Products
(1 results)