2003 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
12610511
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Research Institution | Hosei University |
Principal Investigator |
結城 英雄 法政大学, 文学部, 教授 (70210581)
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Keywords | ジョイス / アイルランド / フェネガンズ・ウェイク |
Research Abstract |
本年度は『フィネガンズ・ウェイク』第十四章から最終章の第十七章までを研究対象とした。第十四章から第十六章までは第三部に属し、庶民の生態に焦点が向けられ、第十七章は第四部の単独の章で第一章へと回帰する章である。過年度と同様、創作過程の草稿を念頭に置きながらそれぞれの意味の束を析出し、同時に先行の章との連関も配慮し、この作品の「知の方位」を考察した。全体的な「知の方位」としての考察は言語革命の意味づけを中心に、これまでの小説の認識枠を破壊する言葉遊び、それを支える夢の世界、さらには国家と物語の関係などが主要な検討事項となった。言葉遊びにおいては擬音語、地口、かばん語、逆さ綴りなど、夢の世界については現実との関連の問題、国家と物語については作品の根底にある性の問題を論じた。付帯的な問題としてはこれまで前提とされていた主題、構成原理、物語の挿話群を再検討した。主題は人物の概念化という側面を考察し、ダブリンの地誌と人物描写を結びつけた。構成原理はヴィーコの歴史観やブルーノの二元論の枠組としての用法に目を向けた。物語群は各章に散在する意味の束を集約するより大きな束で使用されるもので、父と息子の対立、父と娘の近親相姦、兄弟の相克などといった問題を考察した。これらの考察で作品の全貌が解明されたとわけではないが、「知の方位」は明確になったものと思う。今後は不足部分を補足しながら、論証を確固としたものにして行きたいと考えている。
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