2001 Fiscal Year Annual Research Report
近代フランス文学に表れた宗教と科学の相剋-Spiritismeを中心として
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12610524
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
稲垣 直樹 京都大学, 総合人間学部, 教授 (20151574)
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Keywords | グノーシス主義 / シンクレティズム / ヴィクトル・ユゴー / スピリティスム / マニ教 / 静観詩集 / ナグ・ハマディ文書 |
Research Abstract |
本年度の研究によって得られた新たな知見を以下に示す。 1、グノーシス主義は初期キリスト教の伝播と並行して、紀元2〜3世紀に地中海世界に広まった宗教思想であり、その後の西欧思潮でも重要な位置を占め、その影響は20世紀にまでも及ぶことが近年明らかになりつつある。このようなグノーシス主義的な世界観をヴィクトル・ユゴーがかなり持っていたことをフランスの研究者に先立って詳細に明らかにすることができた。すなわち、主として以下の点である。 2、ユゴーの作品世界が「『グノーシス主義的』と呼ばれ得るための」要件(大貫隆他訳『ナグ・ハマディ文書I』、岩波書店、1997、p.213)をそれなりにすべて満たしているとともに、ユゴーは個々の作品の詳細部において、グノーシス主義的発想を散見させている。ユゴーのシンクレティズムの世界にあって、グノーシス主義はその有力な構成要素となっている。 3、ユゴー独自の神話的宇宙論でありながら、きわめてグノーシス度の高い作品に「闇の口の語ったこと」という詩(1856年刊『静観詩集』収載)がある。大貫隆が列挙するユダヤ教黙示文学の定型的構成要素(大貫隆他訳『ナグ・ハマディ文書IV』、岩波書店、1998、PP.2-11)を多分に含んだ作品でもある。 4、創世神話についてはユゴーはシリア型グノーシス主義の流れを汲み、世界の表象についてはあまりにも端的にマニ教的である。マニ教がイラン型グノーシス主義を代表していることはいうまでもなく、したがって、ユゴーにおけるグノーシス主義はある意味ではシリア型とイラン型の折衷といえる。とりわけマニ教においては、神格の本質である「光」と、悪の本質である「闇」との戦いとして、創世と宇宙の歴史が叙述される。「光」と「闇」の二元論がユゴーの発想の中心に食いこんでいることはこのこととの関連において捉えうる。 5、カバラ、輪廻思想、そして、spiritismeの実躍などがユゴーにおけるシンクレティズムを形成している。このシンクレティズムを接点として、日本の詩人土井晩翠に与えたユゴーのかなり本質的な影響を初めて明らかにした。
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[Publications] 稲垣直樹: "ユゴーとグノーシス主義"共著『グノーシス異端と近代』(岩波書店). 161-173 (2001)
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[Publications] Naoki Inagaki, Shen Dali, Dang Thi Hanh, Dang Anh Dao: "Victor Hugo en Extreme-Orient"Maisonneuve et Larose (Paris). 80 (2001)