2000 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
12610532
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
奥田 敏広 京都大学, 総合人間学部, 助教授 (60194495)
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Keywords | グスタフ・ヴィネケン / 青年運動 / 同性愛 / ナショナリズム / エロス / ヴァンダーフォーゲル |
Research Abstract |
ヴァンダーフォーゲルに始まる20世紀前半のドイツ青年運動が、既成市民秩序とその工業社会に反対する一方、共同体を志向することを通して反動的なイデオロギーに近づく、というアンビバレントな二つの側面を持っていたことは周知の事実であるが、どちらかというと今日では後者、すなわちその教養市民的限界を強調し、ナショナリズムの極端な形態としてのナチズムと結び付ける見方が支配的である。 しかし、本年度の研究において私は、青年運動の代表者のひとりであるグスタフ・ヴィネケンのほとんど問題にされてこなかった論争文『エロス』を詳しく分析することによって、その同性愛を核とするエロスをめぐる言説に新たな光をあて、そのいわば反市民的革新性の重要性を明らかにした。すなわち、ヴィネケンの関心は、詰め込みではない人格的交流に基づく教育という今日までも続く理想の実現にあったが、彼はその人格的交流を同性愛エロスに求めたのである。教育における同性愛エロスが当時から現在に至るまでの市民社会においてタブーであることは言うまでもなく、実際ヴィネケンは、その思想の実践によって大きなスキャンダルと裁判に巻き込まれ、市民社会から実質的に葬りさられたのであった。 とはいえ、一方でヴィネケンが、なるほど「祖国愛」に慎重でありながらも、「共同体」の理念の強調によってある種のナショナリズムを志向していたこともまた確かであり、ヴィネケンにおけるこれらの明らかにされた事実は、権力(ナショナリズム)による性の弾圧というような従来の一面的な図式においては把握しきれない、エロスとナショナリズムの多様で錯綜した関係の典型的な例証になると思われる。
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Research Products
(1 results)