2003 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
12610547
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Research Institution | HOKKAIDO UNIVERSITY |
Principal Investigator |
佐藤 知己 北海道大学, 大学院・文学研究科, 助教授 (40231344)
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Keywords | 蝦夷記 / アイヌ語 / 方言 / 言語史 / 社会言語学的変種 / アイヌ神謡集 |
Research Abstract |
今年度は「蝦夷記」のアイヌ語の研究を重点的に行い、18世紀のアイヌ語の音声、音韻、文法、語彙の分析を行った。その結果、これまで知られていなかった点として、いくつかの特色が明らかと,なった。まず、音声的な面について言えば、今日のhに対応する位置に、パ行の仮名が用いられている場合が、偶然とは思えない頻度で存在することが明らかとなった。また、今日のaに対応する位置にオ段の仮名が用いられている例も多数あり、これらの音が今日のアイヌ語とは異なる音であった可能性が明らかとなった。文法的な点についていえば、人称接辞の存在が、既にこの時代の日本人によって気がつかれていたことを示す記載が見つかった。また、それらの中には、接周辞的なものが含まれている。語彙的な面についていえば、従来あまり明らかでなかった、社会言語学的な変種が、この時代のアイヌ語には相当数存在していたことがわかった。指示対象の種類、使用者の社会的な立場、使用される場面に応じて、同じ対象に対して実に様々な語彙が存在していたことが明らかとなった。これらはいずれも今日のアイヌ語方言では全く知られていないか、痕跡的にしか残っていない特色であり、アイヌ語の歴史的な変遷、アイヌ語の文法構造を探る上で貴重な手がかりを提供するものである。また、この研究で明らかとなった語彙に関する情報を現代の代表的なアイヌ語テキストである『アイヌ神謡集』に応用した結果、その中の難読個所の解釈に役立つ場合があることを示した。
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Research Products
(2 results)